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前半は、海の生き物たちと人工知性「海神」の物語。 浜辺で、深い水底で、水族館で、あるいは遠い未来の海の物語は、なにか繋がりがありそうで、じつはすべて蟹の語るとりとめのない夢想なのかもしれない。 人間も登場するし、人間視点の物語もあるけれども、その「人間視点」はなにかべつの「もの」が人間視点を想像して語ったような、不思議な浮遊感がある。 答えのないもどかしさを味わう、海の物語。 後半は、美少女ふたりが海産物を食する短編。 作者の書く、食事シーン……めちゃくちゃ美味しそうです。対象の食べ物に対するこだわりも半端ない。 この執拗な描写は、必読だと思います! | ||
タイトル | 夢想甲殻類・蟹編 | |
著者 | 木村凌和 | |
価格 | 300円 | |
ジャンル | 掌編 | |
詳細 | 書籍情報 |
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味わいの違う四編の短編集です。 「花咲み」 主人公が、不思議な「モノ」たちと行き逢うことで「花咲み」という現象を知る。 主人公がある人に聴いた「花咲み」の起こる瞬間と、主人公が実際に行き逢い、感じたその瞬間には齟齬があるのですが…… そのわずかな感触の違いを描ききる作者の描写力と、おのおのに個性的な花の佇まいの美しさや「異界感」とでも表したい現実からわずかに遊離した表現…… 「詩と物語の間」……作者の巻頭の言葉がこの物語の味わいをあますことなく表現しています。 「海に沈む」 電信柱の結界に守られた地上の世界と水底の世界。 紅い魚が繋ぐ、地上と水底、此岸と彼岸の不穏に溶け合う感じが良い。 後半、不安に満ちた物語の中、主人公の最後の台詞がその不安感を鮮やかに切り裂くものとなっている点を特筆したい。 「彼岸花」 ふれあえない世界、ふたつを繋ぐ少年。 優しい世界で伸びやかに育つ少年の姿が愛おしく、また、ふれあえない世界の静かな痛みに満ちた物語。 「迷子の栞」 本を読む、ということで繋がっている祖母と孫の、だたそこにある日常の物語。 祖母の日常と、孫の日常、そして「本の中の世界」が、一枚の栞によって、ある次元で重なり合うその瞬間に読者もまた、ちいさな驚きを得る。 どの物語も、それが見たこともない異界であったとしても、「その場面」が端正な描写によって脳裏に喚起されるところが、この短編集の凄みだと思います。 | ||
タイトル | 【おすすめ】移ろい | |
著者 | 桜鬼 | |
価格 | 500円 | |
ジャンル | そのほか | |
詳細 | 書籍情報 |
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言葉のない世界。 主人公は、自分の所属していた共同体内部の人間関係に疲れ果てて、その場所を逃げ出したと思われます。 死の可能性すら排除しなかったその逃避行で、主人公は長く戦争をしている敵国の女性たちが孤立して暮らす共同体に流れ着き、そこで暮らし始めます。 敵国の言葉を主人公は理解できず、女性たちも主人公の国の言葉を知らず、主人公は言葉を学ぼうとしなかったがゆえに、主人公と彼女たちは、言葉のない世界を形作っていきます。 主人公の求める「言葉を排除した」コミュニケーションは申し分なく成立し、主人公は彼女たちと信頼関係を築き、愛すら育んでゆくわけですが…… 終盤の容赦ない変転。 そこで突きつけられるのは、充分に見えた主人公と彼女たちのコミュニケーションが、「本当に満たされたものだったか」ということ。 そして、読者は気づくのです。 すべては、主人公の主観の物語だったと言うことに。 主人公は彼女たちのことを深く理解しながら、なにも知らなかったのだと言うことに。 見たくない現実 逃げてきた軋轢 言葉のある世界 ラストシーン、なにが誤っていたのか……言葉をもって探そうとする、主人公の旅が始まった瞬間のように感じました。 怒りと祈り、そして言葉に満ちた世界の物語 | ||
タイトル | 戦場の風使い | |
著者 | にゃんしー | |
価格 | 400円 | |
ジャンル | 純文学 | |
詳細 | 書籍情報 |
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ぼんやりとした、いまそこにある手応えの薄い、けれどもそれだけにリアルな未来への不安 収録された四編の風合いを表せば、こうあらわせるだろうか。 空石「At The SEVENTH Heaven」 天に浮かぶ天球……滅びゆく第六天から第七天に逃げてきた仲間の物語。 第七天にも問題があり、その問題は、仲間の不協和音となる。 鎹となる人物はすでに失われているなか、来たるべき次の厄災に主人公たちはどう向き合うのか…… 血石「死闘! 四本腕の男!」 コミカルな表題、原色の色合いの特徴の際だったキャラ設定。 物語もテンポ良く進み、からりとした読後感。 しかしながら解決された問題の背後にあるものの不快な手触り…… 虎翳石「まだらな二人」 支え合っているのか、依存しているのか。 そもそもそれは区分可能な関係なのか。 ふたりの関係に関するきっぱりとした決意にもかかわらず、自分たちの未来を見詰めるふたりの視線には、独特の影がある。 霊石「霊石イオピリアスについて」 閉じた世界。主人公には迷いはない。 しかし、神視点の読者が見通す世界は昏く不安なものに満ちている。 舞台はSF風、FT風、現代もの。 対人関係への、世界への、ぼんやりとした、リアルな不安……それは現実にも存在し、名付けられることなく我々が内包しているものかもしれない……を感じられる作品。 | ||
タイトル | 鉱石トリビュート「幻石」 | |
著者 | ひざのうらはやお | |
価格 | 800円 | |
ジャンル | 掌編 | |
詳細 | 書籍情報 |
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肺結核患者の療養するサナトリウムを舞台にした、生と死の物語。 あるいは、死にゆくひとびとの心と、生き続けるひとびとの魂の救済の物語。 魂の救済者としての神父と、社会の救済者たらんとするマルクス主義者のあいだで自己のあり方に悩む(心の支えを持たない)医師。 三者の気持ちのあり方が、病の進行とともに少しずつ変容していく過程が、丹念に描かれています。 ……誤解を招くような書き方をするなら、医師と患者として、分かちがたく交わりあおうとするふたりのあいだに神父が割って入り、病人を神の御許へ、医師を現世へ留め置こうとする物語。 タナトスに近い場所でもがくふたりに比べ、神父さんが一番、エロスに近い存在として描かれていて、その存在感には生々しさがある。 大正から昭和へと向かう薄暗い時代背景と、医学への献身、マルクス主義、そして現代社会における神の存在、すべてに目配りしながら、ぶつかり合うことで魂の深い部分に触れ、死にゆく者は死にゆくための、生きてゆく者は生きてゆくための魂の救済を得るラストへの展開が、美しい。 装丁の美しさも含め、まさに「美しい人びと」の物語。 | ||
タイトル | The Beautiful People | |
著者 | 宇野寧湖 | |
価格 | 800円 | |
ジャンル | 大衆小説 | |
詳細 | 書籍情報 |
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男と女の恋愛以外の、あるいは恋愛に至らない駆け引きを描くアンソロジー。 またニッチなところを……と思うわけですが、でも、意外に多いと思うんですよ。 男女の恋愛以外の物語を読みたい方。 私は藍間さんの作った特設ページの広告見て飛びつきましたよ。 (特設サイト)http://indigo.mints.ne.jp/stalemate/ 「灰色のレイニー」 過去に家族のような関係にあった男と女。 女にとっては父親とともにあったなかば悪夢のような存在が、ふたたび現れたとき……自身の自由を賭けた駆け引きの幕が開く。 「北の森に梟が鳴く」 外交使節の長は女だった。国家の交渉の場では見くびられがちな女と、使節に面会した十八番目の王子の思惑が産んだ密かな駆け引きが国を変えてゆく…… 「ラブラドライトの献身」 近未来SF。地域開発にかかわるきな臭さ。果たして、警察内部の内通者とは転籍してきた彼なのか。それとも…… 「スケジュール・パズル」 システム開発の現場。過密なスケジュール、修正、バグ……家に帰りたい。休みたい。でも帰れない……互いに事情のある開発部のふたりの、不和と共闘の物語。 「青髯に捧げる狂詩曲」 楽器の女と楽器に魅入られた男の歪んだ関係の行方は。互いの「終わり」を見詰め、なにかを残そうとする駆け引きの物語。 「(RE)START」 家族を失い、「物語」を失った童話作家に訪れた転機。あたらしく担当になった女性は、作家にかつての物語の続きを書いて欲しいと要望するが…… 「色効かし」 その才能を見込まれて社長の結婚することになった染織家。 社長に忠誠を誓う青年は、海のものとも山のものともしれないその染織家の人柄を品定めするために彼女の住む家に会いに行くが。 どの物語にも、甘えを許さない厳しい駆け引きの似合う、自分の人生にたいしてすっくりと立ち上がった格好いい男女がいます。 | ||
タイトル | 駆け引きアンソロジー「ステルメイト」 | |
著者 | 藍間真珠、汐江アコ、志水了、立田、土佐岡マキ、藤原湾、森村直也 | |
価格 | 800円 | |
ジャンル | 大衆小説 | |
詳細 | 書籍情報 |
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140字で切り取られた風景。 幻想の、日々の生活の、極限の、その刹那。 どの刹那……断片にも、さまざまな色合いの輝きが潜んでいて、その輝きは、「断片」の過去と未来、登場人物たちの文字としては刻まれていない気持ちを淡く照らし、読者の脳裏にその姿を影絵のように映し出す。 輝きもまた、暖色のぬくもり、黒真珠の深淵、純白の清冽、蒼い哀切……さまざまな色合いを持っている。 各ページの書体も物語に合わせて選択された、作者の美意識が磨き上げた作品集です。 | ||
タイトル | 呟集 真珠 | |
著者 | 桜鬼 | |
価格 | 500円 | |
ジャンル | 掌編 | |
詳細 | 書籍情報 |
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星の散る窓辺で本を開く。 その本の角は丸くなっていて、表紙の紙の手触りも優しい。 十人の創作者の綴る、「明日、目覚めるための物語」。 形式やジャンルは違えども、その言葉が育むのは、ぬくもり。 海と森が交錯する刹那、寂しい冬の到来を告げる人の訪れ、幾重にも編み込まれた夜と夢のあわい。 幼いものにだけ抱ける柔らかいそれ、不思議な少女とのどこか生と性を感じさせる交流、名付けがたい彼女たちの絆。 すこし哀しくて愛(かな)しい歌、終わらない眠りに去って行こうとする者への優しい愛惜、厳しい現実を生きるふたりの親愛。 そして、わずかな勇気と、思いやりで明日へと繋がってゆく「大切な人への想い」。 目を閉じる前に本を開いて、物語を、言葉をひとつ胸に抱けば、それはやがて明日の目覚めを連れてくる。 夜の浄さと柔らかさに育まれたぬくもりとともに、朝の光を呼んでくる。 「さよなら、おやすみ、またあした」 | ||
タイトル | さよなら、おやすみ、またあした | |
著者 | 座木春/佐々木海月/佐々木紺/鳴原あきら/二季比恋乃/笛地静恵/豆塚エリ/三明結都/実駒/高梨來 | |
価格 | 1000円 | |
ジャンル | そのほか | |
詳細 | 書籍情報 |
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主人公の平和な生活は、ある日を境に一変する。 氷結する村をあとにして、主人公は旅立つ。 旅の先々で、主人公は身勝手な創造主と、創造主の思惑に振り回される哀しい存在を知る。 主人公の「敵」である存在とは、なんなのか。 封じられた者も、倒すために創られた者も、そしてその間に立つ主人公も、みな、自分の在り方に苦悩し、望まぬ結論を出さざるをえない。 そして、それを強いた存在の身勝手さを思い知ることになる。 物語の終わり、主人公たちがもぎとったその明るい光景と、胸の内に宿る悼み、そのコントラストに思いを馳せる作品。 | ||
タイトル | 古の英雄譚 | |
著者 | 神奈崎 アスカ | |
価格 | 1500円 | |
ジャンル | ファンタジー | |
詳細 | 書籍情報 |