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主人公の海吏くんが双子の姉の祈吏ちゃんへの恋で悩むのは、近親相姦というよりも、あたたかく安全な巣から飛び立つ雛の苦しみであるように感じた。何があっても味方でいてくれる、家族。それはもちろん大切で必要なものだけれど、生きていくためには、時に攻撃してくる者も現れる、危険な「外の世界」に出て行かないといけない。 外の世界にだって味方になってくれる人がいる。無理やり巣立ちをするように留学したロンドンで出会う、マーティン。けれども同性であるがゆえに、彼は愛し愛されることをためらう。 「君は寂しいだけなんだよ。そのくらい知ってるよ、そんなの全部分かって君に近づいたんだ。軽蔑するだろ?」 このセリフ、切なくて本当に良いですね…… 海吏くんとマーティンがキスをしたり体を触りあったりするシーンがとても優しく素敵で、舞台がイギリスであることもあり、映画「モーリス」を思い出しました。 BLは、やるのも良いが、やらないのも良い!! 海吏くんは最終的に、祈吏ちゃんとの適切な距離を見つける。 「愛おしいというその気持ちの在り方を教えてくれたのが祈吏だった」 家族愛も、異性愛も、同性愛も「自分ではない誰かを大事にする」という意味で基本は一緒だ。 海吏くんと祈吏ちゃんはこれからもきっと(それぞれが別の家族を作ったとしても)支え合って生きていけるし、沢山の人に愛を分けてあげられる。 そんな気がした。 | ||
タイトル | ジェミニとほうき星 | |
著者 | 高梨 來 | |
価格 | 800円 | |
ジャンル | JUNE | |
詳細 | 書籍情報 |
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他人に興味がない、と言いつつ他人をものすごく気にする男の子が主人公のBL。 他人には理解してもらえない、と絶望しつつ孤独は選ばないので(割とよく大人数で集まってワイワイする場面がある)よりいっそう孤独感を味わうことになる。 自分をよりどころにして生きるのを「地べたを歩く」感覚とすれば、彼の毎日はまるで足のつかない水中をずっと泳いでいるような苦しさだ。 この子はちゃんとどこかにたどり着けるのだろうかと心配しながら読み進めると、地べたを見つけないうちに恋に落ちてしまう。 心身ともに深く愛し合っているのに、自信がないからそこに確かにある愛を素直に受け止められない。 共にいる喜びより失う恐怖がまさってしまう。 当然相手にも不安は感染し、二人を隔てている何かを埋めようと、ひたすらに愛の言葉と行為を重ねてゆく。 一応ハッピーエンドにはなっているけれど、彼らがしっかりと地べたに立てたのかは分からない。 ただ、二人の日々がこのまま続けば、いつの間にか地に足がつき、息苦しさや怖さも消えるのかもしれない。 ……あんまり推薦文になってないな。困ったな。何度も読み返すくらい好きなんだけど。 最初の一回は主人公の不安に引っ張られるように一気読みした。 物語全体に満ちる不安感と、それがあるがゆえの性的高揚感。 恋にとっても読書にとっても、不安は大事な要素なのだと学んだ。 相手や今ある幸福を信じられない辛さ。 信じたい、信じてもらいたいと願い、ゆっくりと信じ合えるようになってゆく時の、あたたかい感触。 一人では生きていけない二人が、恋に溺れてゆく甘やかさを、存分に楽しんで欲しい。 | ||
タイトル | ほどけない体温 | |
著者 | 高梨 來 | |
価格 | 900円 | |
ジャンル | JUNE | |
詳細 | 書籍情報 |