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『花咲み』 |
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味わいの違う四編の短編集です。 「花咲み」 主人公が、不思議な「モノ」たちと行き逢うことで「花咲み」という現象を知る。 主人公がある人に聴いた「花咲み」の起こる瞬間と、主人公が実際に行き逢い、感じたその瞬間には齟齬があるのですが…… そのわずかな感触の違いを描ききる作者の描写力と、おのおのに個性的な花の佇まいの美しさや「異界感」とでも表したい現実からわずかに遊離した表現…… 「詩と物語の間」……作者の巻頭の言葉がこの物語の味わいをあますことなく表現しています。 「海に沈む」 電信柱の結界に守られた地上の世界と水底の世界。 紅い魚が繋ぐ、地上と水底、此岸と彼岸の不穏に溶け合う感じが良い。 後半、不安に満ちた物語の中、主人公の最後の台詞がその不安感を鮮やかに切り裂くものとなっている点を特筆したい。 「彼岸花」 ふれあえない世界、ふたつを繋ぐ少年。 優しい世界で伸びやかに育つ少年の姿が愛おしく、また、ふれあえない世界の静かな痛みに満ちた物語。 「迷子の栞」 本を読む、ということで繋がっている祖母と孫の、だたそこにある日常の物語。 祖母の日常と、孫の日常、そして「本の中の世界」が、一枚の栞によって、ある次元で重なり合うその瞬間に読者もまた、ちいさな驚きを得る。 どの物語も、それが見たこともない異界であったとしても、「その場面」が端正な描写によって脳裏に喚起されるところが、この短編集の凄みだと思います。 | ||
推薦者 | 宮田 秩早 |