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肺結核患者の療養するサナトリウムを舞台にした、生と死の物語。 あるいは、死にゆくひとびとの心と、生き続けるひとびとの魂の救済の物語。 魂の救済者としての神父と、社会の救済者たらんとするマルクス主義者のあいだで自己のあり方に悩む(心の支えを持たない)医師。 三者の気持ちのあり方が、病の進行とともに少しずつ変容していく過程が、丹念に描かれています。 ……誤解を招くような書き方をするなら、医師と患者として、分かちがたく交わりあおうとするふたりのあいだに神父が割って入り、病人を神の御許へ、医師を現世へ留め置こうとする物語。 タナトスに近い場所でもがくふたりに比べ、神父さんが一番、エロスに近い存在として描かれていて、その存在感には生々しさがある。 大正から昭和へと向かう薄暗い時代背景と、医学への献身、マルクス主義、そして現代社会における神の存在、すべてに目配りしながら、ぶつかり合うことで魂の深い部分に触れ、死にゆく者は死にゆくための、生きてゆく者は生きてゆくための魂の救済を得るラストへの展開が、美しい。 装丁の美しさも含め、まさに「美しい人びと」の物語。 | ||
推薦者 | 宮田 秩早 |