ラウが目にしたのは、凍てついた村だった。
確かに、マジュヒック山嶺の麓に位置するベルフ村は冬の厳しさで有名だが、雪の季節は未だ遠かった。筈だ。
自ら事切れさせた兎の肉塊が、革袋ごと厚い氷雪の大地に落ちる。どさり。音は粉雪のせいで大きくならず、故にラウは手中に何があったのか、そもそも手に何を持っていたのかさえ忘れ。
少女は、凍てついた故郷を彷徨う。
誰か、父さん、母さん。友の名を、仲間の名を、そして家族の存在を。真っ白な吐息と共に大きく口にはするが、しかし微塵も響かない。真白いものが、全ての音を吸い込んで、静寂だけをラウに返すばかり。
短くとも瑞々しい草木に包まれた大地は、代わりのように氷に包まれ、乾いた青空は厚ぼったい灰色に成り代わる。ふらり、ふらり、ラウは覚束無い足取りで、今日まで生きてきた村を巡る。
生命の緑は細やかな白く冷たい砂に覆われ、時折風と共にラウの頬を強く撫でる。冬の装いなどしていない少女の体を、大地から空から冷やしていく。
予感は、全くなかった。
前日は見事な秋晴れで、今年は豊作だと畑番の者達が朗らかに言っていた。村の外れに自生している果実の木には、森からの恵みだと言外に伝えんばかりにたわわな実がなっていて、今朝方少しばかり失敬したばかりである。その後は、大人達に混じって狩りを行い、大物を捕まえた彼らの背をその場で見送った。ラウには行きたい場所があった。先日、山の方に罠を張ったので、その確認である。
罠を張った箇所へ赴き、運悪くも捕まった兎を幾つか狩ったところ、雲行きが怪しくなった。昼の頃合いでもあったので村への帰路を急いだら、これだ。
再度、村を見渡す。人が、人のいる気配が不思議とない。道には勿論、点々と建っている家にすら。
妖精もいない。音も重さも感じさせない魔力が詰まった煌めきを、空気のように漂う光を、一つも目にしていない。
言葉に表しきれない恐怖が、ひたひたと足を包んでくる。ラウは懸命に歩を進め、見落としのないよう、蒼天の目を光らせた。
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