出店者名 にゃんしー
タイトル 戦場の風使い
著者 にゃんしー
価格 400円
ジャンル 純文学
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紹介文
言葉が無くても、平和は得られると思っていた。

漂流した島で 、7人の敵国の女の子と出会う。
敵国であるから、言葉は通じない。
敵国の女の子が唯一覚えた言葉は「ごめんなさい」というものだった。

あの子は「ごめんなさい」をどんな意味の言葉だと思っていたのだろう?
とてもどうでもいい言葉として使っているようにも思えた。
とても大切な言葉として使っているようにも思えた。

答えは終戦後、石に焼きついた彼女の影だけが知っていた。

文藝賞一次通過作。

 はじめに言葉はなかった。
「      」
 代わりに、きもちわるかった。
 少女の、碧色の瞳と金色の髪を、見たことも、触れたことも、感じたこともなかったから。初めて会う敵国人に戸惑うより、おそれが勝った。しかし逃げようとしても、身体がまるで動かない。目線だけを泳がせると、ぼくは真白い布団のうえに横たわっていた。周りにはまだらに錆びた鋏、血で汚れた下着、ぼろぼろに痛んだ兎の縫いぐるみなどが散らかっている。すえた匂いがあやしく漂う。
 少女の部屋もまた、とてもきもちわるく思えた。
 海で難破したことを思い出した。少女が救ってくれたのだろうか。言うべき言葉は思い浮かんだが、敵国人に言っても伝わらないだろうと思った。少女もまた何も言わず、しばらく曹達飴のような丸い目をぱっちり見開いてぼくに向けた。沈黙は自然とぼくたちの目線をお互いの唇に与えた。
 そのまま、ぼくたちは唇を重ねた。
 初めての疎通はまるで現実感が無くて、例えるなら、風のあじがした。


言葉のない世界、その虚実
言葉のない世界。

主人公は、自分の所属していた共同体内部の人間関係に疲れ果てて、その場所を逃げ出したと思われます。
死の可能性すら排除しなかったその逃避行で、主人公は長く戦争をしている敵国の女性たちが孤立して暮らす共同体に流れ着き、そこで暮らし始めます。
敵国の言葉を主人公は理解できず、女性たちも主人公の国の言葉を知らず、主人公は言葉を学ぼうとしなかったがゆえに、主人公と彼女たちは、言葉のない世界を形作っていきます。
主人公の求める「言葉を排除した」コミュニケーションは申し分なく成立し、主人公は彼女たちと信頼関係を築き、愛すら育んでゆくわけですが……

終盤の容赦ない変転。
そこで突きつけられるのは、充分に見えた主人公と彼女たちのコミュニケーションが、「本当に満たされたものだったか」ということ。
そして、読者は気づくのです。
すべては、主人公の主観の物語だったと言うことに。
主人公は彼女たちのことを深く理解しながら、なにも知らなかったのだと言うことに。

見たくない現実
逃げてきた軋轢
言葉のある世界

ラストシーン、なにが誤っていたのか……言葉をもって探そうとする、主人公の旅が始まった瞬間のように感じました。


怒りと祈り、そして言葉に満ちた世界の物語
推薦者宮田 秩早



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