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はじめに言葉はなかった。 |
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言葉のない世界。 主人公は、自分の所属していた共同体内部の人間関係に疲れ果てて、その場所を逃げ出したと思われます。 死の可能性すら排除しなかったその逃避行で、主人公は長く戦争をしている敵国の女性たちが孤立して暮らす共同体に流れ着き、そこで暮らし始めます。 敵国の言葉を主人公は理解できず、女性たちも主人公の国の言葉を知らず、主人公は言葉を学ぼうとしなかったがゆえに、主人公と彼女たちは、言葉のない世界を形作っていきます。 主人公の求める「言葉を排除した」コミュニケーションは申し分なく成立し、主人公は彼女たちと信頼関係を築き、愛すら育んでゆくわけですが…… 終盤の容赦ない変転。 そこで突きつけられるのは、充分に見えた主人公と彼女たちのコミュニケーションが、「本当に満たされたものだったか」ということ。 そして、読者は気づくのです。 すべては、主人公の主観の物語だったと言うことに。 主人公は彼女たちのことを深く理解しながら、なにも知らなかったのだと言うことに。 見たくない現実 逃げてきた軋轢 言葉のある世界 ラストシーン、なにが誤っていたのか……言葉をもって探そうとする、主人公の旅が始まった瞬間のように感じました。 怒りと祈り、そして言葉に満ちた世界の物語 | ||
推薦者 | 宮田 秩早 |