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一筋縄ではいかなさ過ぎる小説……。熱中して、中盤以降は一気に読んだ。 過去に殺人を犯した少年が出所してくる。中学生だった彼に母親を殺され自らも意識不明だったかつての被害者「江波透夏」は院生の女の子に成長し、自分と同じように年齢を重ねているであろう出所してくる「西末悠」と逢おうとしている、それは「約束」をしているから──。 勿論周囲は反対する。そのうえ現在は透夏をめぐると思わせる連続通り魔事件まで起きている──これが現在時点の舞台のあらすじだ。 兎に角人間描写も会話文も魅力的だし、その人物も人物関係も普通ではない。普通じゃない! に尽きるのにそれも魅力になってどんどん読んでしまう。 時折挟まれる過去パートの章があり、構成としては入り組んだ一冊にしているのに難なく読めて、自然な展開の捗りからあらわれてくる事実、事実についつい熱中(して食事を忘れました)。 「透夏」という感情表現に屈折した人物が、心をほどく気配がある部分では彼女に入れ込み、「悠」と「透夏」の関係にも気が抜けない。「透夏」は読み進めていくうちに、可愛いなあ……と思う。 設定だけ話すと凄惨な話のようだが、折々、人物たちが互いに親愛に満ちているのが好きだ。それも不器用で真っ直ぐではない親しさだったりして、そういう部分を読むのが楽しい。 ひとむかし前に「人間が描けていないミステリー」「人間が描けているミステリー」なんて言い回しがあったな、と思い出した。人物も事件も構成も一筋縄ではいかな過ぎなのに作り物の感無く、こんなに魅せるのは、ただただ、上手いんだなあ、と思う。 軽いとは云えない部分もあるのですが、一言で云うなら面白かったです。読み応えのある一冊。夢中になります。 ミステリー・サスペンスが好きなひとに、また人物描写が深い本が好きなひとにならきっとお薦めです。 テキレボ(text-revolutions)アンソロジー:テーマ「嘘」に掲載された掌編の完成形ということで、掌編のみ既読の方も是非。 | ||
タイトル | 嘘つきの再会は夜の檻で | |
著者 | 土佐岡マキ | |
価格 | 1000円 | |
ジャンル | 大衆小説 | |
詳細 | 書籍情報 |