推薦者一覧
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にゃんしー(9) ひざのうらはやお(8) ひじりあや(5) まゆみ亜紀(5) まりも(1) まるた曜子(8)
オカワダアキナ(13) キリチヒロ(3) ハリ(1) 宇野寧湖(7) 海老名絢(3) 犬尾春陽(1)
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小高まあな(4) 新島みのる(10) 森瀬ユウ(1) 森村直也(1) 真乃晴花(3) 壬生キヨム(6)
杉背よい(1) 世津路 章(1) 正岡紗季(5) 西乃まりも(1) 泉由良(2) 想詩拓(1)
第0回試し読み会感想(9) 第一回試し読み会感想(3) 津木野由芽(1) 藤和(1) 凪野基(16) 南森町三郎(1)
白昼社(1) 匹津なのり(1) 氷砂糖(3) 服部公実子(1) 服部匠(5) 並木陽(2)
泡野瑤子(5) 鳴原あきら(5) 木村凌和(1) 柳屋文芸堂(11) 悠川白水(1) 夕凪悠弥(2)
容 (@詩架)(1) 綺鱗舎(2)

凪野基さんの推薦文一覧
ファンタジーという名の薬と癒し
双子の姉と、留学先のイギリスに残してきた同性の恋人との間で揺れる心を軸に、人間関係で傷ついた心が癒やされ、他者を受け入れられるようになる少年の変化を描く、青春BL小説です。

人に傷つけられたものを回復するのもまた人、海吏は親友の春馬や姉の祈吏、恋人のマーティンとの交流を経て自信を取り戻してゆきます。
描かれる人間関係は箱庭的で温かく、ともすれば結論ありきのファンタジーだと読めるかもしれません。けれど、作者の來さんはそのような読まれ方をされることも含めて、この「ジェミニとほうき星」を執筆されたのではないかと思うのです。
何か疲れたな、しんどいな、そんなときに安心して没頭できる優しい世界を、否定されることのない完全な肯定の世界を。そんなふうな気配りが感じられます。
フィクションの世界で英気を養い、再び現実に帰ってこられるようなひとときの休息。そんな物語です。
タイトルジェミニとほうき星
著者高梨 來
価格800円
ジャンルJUNE
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産む性ではない郡司が至る「平和」の姿
過去にTwitterに感想を流したのですが、改めて考えてみると「郡司が生まれ直す物語」と言えるのでは、と思いました。

姉から逃げるようにして東京を離れ、海辺の鄙びた温泉旅館で働く郡司。射精障害、薬の副作用による乳汁分泌、ポケットの中に入ったままの飴玉、くらげを飼ったこと、メッセージ性のある要素をたくさん持つ魅力的なキャラクターです。
彼の語り口調は丁寧であるけれど徹底した客観の果ての「他人事」のようで、文中にも郡司自身がどう思ったとか、どう感じたとか感情の表現があまりありません。郡司は物語世界における目の役割しかしていないのではないかというほど、透明な存在です。
幼少期から、郡司のおかれた環境はかなり過酷で、自己を守るための客観なのかなとも思います。生への執着が薄く、かといって積極的に死を選ぶでもない、まさに生きるための戦争の最中。逃亡先でも姉に似た「生霊」と呼ぶ少女の出現など、彼の戦いは続いて、そして銀色のゲンバクによって生じたグラウンド・ゼロとラジオによって、終わる。
銀色のナイフ、それが生み出した涙と熱。しにたくないよ、という、生命の本質を口にする郡司。短いながら、クライマックスのシーンは彼が押さえつけ、表に出ないよう閉じ込めていたものすべてが迸り出るようでした。これが「生まれ直す」と感じた理由です。

無駄な要素がなく、全てのピースがあるべき場所にきちんとはまる、そんな爽快な結末へ着々と読ませる力のある物語です。二十章と、ラストを読んで、ああ郡司はちゃんと取り戻せたんだ、と詰めていた息をようやく吐ききれた気分でした。
郡司が辿り着いた「平和」がいかなるものか、ぜひたくさんの方に見ていただきたいです。

海辺とかくらげは生の際、生まれ損なったものを想起させます。それから、産む性ではない郡司がアランに渡し、渡される火=熱。最後に受け渡された火こそ、ヒトが生み出したものじゃないかと。読み終わって本を持つ手がぶるぶる震えました。すごくすごく良かったし、オカワダさんが舞台化したのを見てみたい。そう思います。
タイトルぎょくおん
著者オカワダアキナ
価格400円
ジャンル大衆小説
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ヒトはヒトガタに何を見るのか
人形、といっても、いわゆる「ドール」「お人形」ではなく、字の通り「ヒトのカタチをしたもの」にまつわる作品が収録されています。現代ファンタジーからSFまでジャンルも幅広く、「人形」というテーマの扱いも作者様によって異なる、とても読み応えのあるアンソロジーです。

杉背よいさん「シンギング・オブ・粉骨」
シュールなのにどこか優しくて、不思議な手触りの作品。
人形である藤井さんが持ちかけた交渉について、ハスミが発した一言には心臓が止まるような気がしました。
ハスミの才能を欲していたのは、果たして誰なのか。
喪失の果て、空を見上げたハスミの心の動きに、藤井さんは気づいたでしょうか。

柳田のり子さん「別世界」
短いながら、硬派なSFです。世界観の説明が最低限に抑えられていて、しかしながら奥行きを感じさせる言葉が随所に散りばめられ、「語らないことで語る」ことを成功させていると思います。饒舌に言葉を消費しないが故の潔癖さがよく表現されていると感じました。

匹津なのりさん「繭子さんも私も」
すこしふしぎ、な現代もの。
語り手の麦子さんは結婚直前で婚約者が浮気して破談になった、という過去があって、という背景をさらっと語るのですが、そこにはやはり悔しさや怒り(浮気相手が知り合いという泥沼)、やりきれない思いがたくさんある。
麦子さんは新たに伴侶となる人と巡り会うのですが、いつの日か「こんなことがあったの」と子どもたちに話せるようになればいいなあと思います。
物語に登場する不思議な魅力を持つ女の子たち、彼女らの正体は明言されていないし、麦子さんも追及しようとしないし、それがまたいい。
麦子さんの語り口から想起されるさまざまな感情がとても愛おしく思える作品です。

西乃まりもさん「弔う火」
ファンタジックな設定と、登場人物たちの関係性が見所です。
何を書いてもネタバレになりそうなのですが、巫女として俗世からは隔離されて育ったマナと神聖な存在として崇められ、祀られる「オカタさま」の対比が見事で、「オカタさま」の提案によって精神を入れ替えっこする、そこから読者にいろいろな想像をさせつつの玉蓉の登場、そして「御遷体」の儀式の日……と丁寧に丁寧に物語が紡がれ、その丁寧さゆえに叫び出したくなる、まさに珠玉の一遍です。
タイトル人形小説アンソロジー「ヒトガタリ」
著者杉背よい・柳田のり子・匹津なのり・西乃まりも
価格400円
ジャンル大衆小説
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食べる、学ぶ、稼ぐ、生きる。
おんなのこ可愛い。可愛いだけじゃなくて、みんなちゃんと自分を見つめて、好きなことや得意なことを見つけて伸ばしていくところが素敵。そうせざるを得なかった、誘拐事件は不幸なことかもしれないけど、それを踏み台にして高いところに飛んで、新たな視点を見つけられるのは幸せなこと。子どもたちみんな幸せになってほしい。
ササヅキが「お金(お前たちを養育・教育するには経済的負担がある)」と「教育(借金を返済するためには稼がねばならない、稼ぐには教育が必要だ)」について少女たちに説いたのはすごくフェアで、この作品のキモでもあるわけですが、それを突き詰めると、「お前たちにはその価値がある」となるのが素晴らしい。(口減らしのために売られるはずだった子たちにそれを言い聞かせるんですよ!)

セリやレジーディアンはじめ自分の道を歩く子たちはもちろん最大限にお祝いするけど、ホーリのようにうまく歩けない子もいて、彼女らを努力友情勝利の方程式に組み込むのではなくて、セーフティネットで受け止めているのがまるた作品が社会派な所以だと思う。
本好きとしては、ハルタと辞書のエピソードが好きなんですけど、もしかするとヨークンドが好きということかもしれない……。 

まるた作品の女の子は一言で言うと「自立」、自分から動き、愛することができる子が多い。恋愛ジャンルの作品でも彼女らが自分で考え、手に職をつけて自分の人生を歩んでいた「から、そのご褒美として愛が与えられたという構図ではない」ことが読んでいてとても爽やかで気持ちいいし、そうだよこれだよ、って思う。
この「花街ダイニング」も、ささやかなエピソードが登場人物に深みを与える上質エンタメかつ歳の差! 長さがちっとも気にならない成長譚! おすすめです。

(R18のおまけ冊子はご褒美的ムフフなお楽しみです。えっちいのがお嫌いでなければぜひともR18版をどうぞ)
タイトル花街ダイニング(R18Ver.)
著者まるた曜子
価格850円
ジャンルファンタジー
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穏やかに包み込む恋と愛
真夜中のファミレスで始まる恋、なんですけど、性急なところはなく、じっくり感情を温め育んでいく二人にきゅんきゅんしました。朝ごはんテロでもあると思います。上品でした。

來さんの作品ならではだと思うのですが、栞も遠峯さんも無理に相手の懐に入ってくるような不躾さがなく、それでも心の距離が少しずつ少しずつ近づいてゆく過程が清潔で見ていて安心感があるというか、web広告とかで汚れた心が洗われる感じで。栞があまり女子女子していないのも個人的に好きです。
タイトル真夜中のころ
著者高梨 來
価格400円
ジャンル恋愛
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一歩ずつ、先へ。
トラウマを乗り越えて自立をこころざす聖羅の足取りや葛藤を丁寧に描いた物語。トラウマの克服というのは、過去の記憶やそこから連なる今をぶちのめしたり否定したりすることではないのですね。

本編にも登場するマッサージのように、滞りをなくすとか、ほぐすとか、そういうことに近いのだなあと感じました。トカちゃんと牧野先生がすごく好きで、読んでいる途中はずっとハラハラしていたので、ラストにはほっとしました。足元が豊かな土になったなあ、と思えて。

フィクションなのですけど、「母」の描かれ方に考えさせられました。私は幸運にも呑気な学生時代を過ごしたけれど、娘や、友だちがこういった問題に直面したとき、自分の立場から逃げ出さずにいられるだろうか、怖くもあるのです。完璧な対応など望むべくもないけれど、せめて逃避や責任を子どもたちに押しつけるようなことはしないでいられたらなあと思います。今この本を読めて良かったです。
タイトル白蜥蜴の夢
著者宇野寧湖
価格800円
ジャンル恋愛
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フェアな日常ミステリ
鍵をなくして閉め出された、ところから始まるフェアな日常ミステリ。ミステリ成分とともにニヤニヤ成分もたっぷりです。みちるのざっくりした性格が可愛く、何だかんだ言いつつそれを放っておけないインテリヤクザ(※彼氏)もかっこいい。装丁もお洒落で、土佐岡さん作品の導入としておすすめです。
タイトル鍵が見つかりませんお月様。
著者土佐岡マキ
価格300円
ジャンル大衆小説
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白に還るものがたり
生物がみな海から生まれたこと、そして海は宇宙から生まれたことを強く意識させる物語でした。死の、滅びの淵にあるというよりは、海へ還っていく間際というイメージで、けれどその海は原始のものではなく、あらゆる生命を育み産み出し、海から巣立った生命が再び帰着するところで有機的に濃密な混沌であるように思います。

同じ場所のはずなのに。描かれる海は様々に表情を変え、白く黒く、楽園のようで単なる断絶のようでもある。誰もが静けさに満ちたそこへ向かう寂しさと悲しさとを感じました。
けれどそれは悲観的なのではなく、揺るぎない事実の結果。有機無機、生命がどのような変質、変態を遂げてもいずれ海に還り、らせんはほどけてまた結ばれる。

純文学にしてSF、個人的な意見ですが萩尾望都先生の絵で見てみたいと思いました。
しんしんとした余韻がどこまでも果てしなく広がるよう。
タイトルLast odyssey
著者孤伏澤つたゐ
価格300円
ジャンルJUNE
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無理が道理をフルボッコ
僕と契約して魔女っ子弁護士になってよ、から始まる人情(?)法廷魔女っ子もの。鳥と戦隊ヒーローの影が見え隠れするまあなさんの好きなものがたくさん登場する作品でした。

「魔法の法は法律の法」と、無理が道理をフルボッコにしている一方で、描かれる事件に関わる人間模様にはぐっと掴まれます。法律と裁判と人の関係性にもさりげなく触れられていて、一粒で何度でも楽しめる。
面白かったー!続編待ってます!
タイトル魔法のひまわりリーガルユカナ
著者小高まあな
価格500円
ジャンルライトノベル
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はやく「おとな」になるために。
まるたさんの作品は、どれも女の子がしなやかでかっこよく、おまけに可愛いのが特徴のひとつですが、この「羽化待ちの君」と続編である「Beautiful Days〜碧の日々〜」のヒロインをつとめる橙ちゃんはナンバーワンと言っても過言ではないハイスペックヒロインです。一家に一人とは言いませんが、ぜひお友達になりたい。
橙ちゃんの手料理で、「僕の真摯な魔女」のすずのんや「花と祝祭」の絢音ちゃん、「淅瀝の森で君を愛す」のまお姉さんと女子会をしたい。そういう女の子です。(ステマ)

既存の恋愛ものジャンルにありがちな、いわゆる「お邪魔系・トラブル体質系・夢見るヒロイン」とは一線を画したヒロイン像は、あまり恋愛ものを読まないという方にこそ読んでいただきたいです。もういっそ、ヒロインと呼ぶのもやめたい。ヒーローです。私の。

本作は叔父さんと姪の、いわゆる歳の差(18歳!)近親もの。橙が学生の頃から写真家として各国を飛び回っていた要は、橙にとってもっとも身近な「世界を見せてくれるふつうの大人」。身内からはダメのレッテルを貼られつつも、幼い頃に遭遇した事件のせいで、橙が抱く脆く性急な早熟願望をうまく受け止めつつ、日本での事務作業を任せるなど、自分の利益と橙の願望をすりあわせて最善の形に導いていく、みたいな包容力のある人物です。

ふたりとも、行動力の塊みたいな性格で、実務的、実際的。と書くとシステマチックで冷徹な人のようですが、ちゃんとけじめをつけられる人、という意味です。世間的にはおおっぴらにできない関係にあるふたりが、ふたりであるために必要なことをひとつひとつ着実にやり遂げていく。選び取り、あるいは捨ててゆく、その地に足が着いた描写とディテールの圧倒的リアリティで物語をぐいぐい引っ張っていきます。
綺麗事だけではありません。苦みも失敗も味わって、それをも糧に成長していく。だからこそ描かれる希望が尊いのです。

いわゆる昼ドラ的な、どろどろした感情の交差ではなく、愛情は(ひとまず)前提、そこからの紆余曲折を楽しみ、寄り添う物語。
えっちいシーンはえっちいですけど(R18だけに)、可愛いし祝福気分でいっぱいの、いわばボーナスステージです。お楽しみに。

こちらを好きな方は続編「Beautiful Days〜碧の日々〜」も間違いなくはまりますのでぜひぜひ。
タイトル羽化待ちの君
著者まるた曜子
価格400円
ジャンル恋愛
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歴史という名の物語に酔う
歴史や地理、当時の国際情勢にも言及されているので、資料を読み解いて浮かび上がる人物像を物語にしたらこうなるのか、と知識がなくても面白く、興味深く読みました。

序章から印象深く、見たことのない土地の光景やひりつくようなルスダンの状況が目に浮かぶよう。
この序章は再読必至です!そして二度目は涙なしでは読めない……。
続く第一章からはルスダンの少女時代、彼女が最も幸福であった頃、何も知らない少女でいられた時代が描かれるので、その差が本当につらくて。よき王であった兄王ギオルギの戦死を機に、無垢な少女から一国を背に負う女王にならねばならなかったルスダンの混乱と孤独、ディミトリが傍にいることの心強さや頼もしさが丁寧に紡がれて(このディミトリがまた切ない……!)史実を小説として書くからこその面白さとままならなさを存分に味わうことができます。

波乱に満ちた少女小説のような人生で……と言うのもおかしな話なのですが、史実を物語として読ませる並木さんの構成の手腕と筆力が光ります。
グルジアのキーワードがちりばめられたカバーイラストも素敵!
タイトル斜陽の国のルスダン
著者並木 陽
価格600円
ジャンル大衆小説
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光射さぬ、人が知り得ぬ深淵の物語
海の神話の語り手、つたゐさんの根っこ、原点を紡いだらこの本になるのでは、と思われる一冊。
海に生きるものにまつわる、神代の物語です。

原始の生命を育んだ海、
ひとが内包するものである海、
ダイナミックな連鎖の場である海、
けれど光の射さぬ海の底は、どうだろうか。そこにあるのは本当に生命か。

生命、生きていることの儚さ、薄っぺらさを突きつける場であり、
生と死が混沌と存在する深海。
「あなたが深淵を覗くとき〜」という有名なフレーズがあるけれども、光射さぬ深淵、深海を人の眼で見ることはできず、もちろん生身で到達することなど叶わず、だからこそいきものたちの声なき声に耳を傾けるのでしょう。

いきものたちの語りは、どれも真摯で情熱的で、かつほんの少しのおかしみも含まれていて、大判の絵本で読んでみたい物語。
神話的でありながらどこか科学的でもあって、深海の暗闇や水の重み、ぬくみ、生命の残酷さと果てしなさがうつくしい文で切々と綴られます。

深海×神話合同誌『無何有の淵より』と併せておすすめしたいです。
タイトル海嶺渓異経
著者孤伏澤つたゐ
価格450円
ジャンルファンタジー
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清く正しい(?)ライトノベル
ネオニートの最凶……もとい最強お嬢さま、茜と駄メイドの名をほしいままにする(?)真里奈のコンビが光ります。
鋭いメタネタ、軽やかな言語センス、テンポ良く展開し、(良い意味で)期待を裏切らない物語。
こういった技術やセンスがぎっしり詰まっているのが、ストレスなく読める軽さの秘訣なのでしょう。

昨今の(と書くと主語が大きくなりますが)転生チートやハーレム、セカンドライフ系ラノベとはひと味もふた味も違う、文字通り「ライトな」小説です。
気軽に手に取って、ムフフと笑って元気になれること請け合いです。
タイトルそれはいわゆる死亡フラグというものでして。
著者夕凪悠弥
価格500円
ジャンルライトノベル
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夜明けのその先に、きっと。
人工の翼を与えられ飛ぶことを強制された少女たち。
大人の道具である彼女らの翼はあまりにもお粗末で、死から逃げて空を目指し、叶わずに海に墜ちてゆく。
空にも海にも、大人たちが支配する陸にも、彼女らの安住の地はない。
その哀しみと、飛ぶことによって僅かな間だけ得られる自由が対比され、吹けば飛んでしまうような自由への憧れが、将来を夢見ることとともに摘み取られてゆくのが痛ましい。

けれど、生命というものが軽すぎる世界だからこそ、生を渇望し、願い、思う力がくっきりと輪郭を持って立ち上がってきます。
請海や叶らが繋ぐ糸はあまりにか細く、けれども明日にしか生きる世界はない。「後ろを見たら死んでしまう」のです。
切り取られた断片を重ね連ねて光を導くような物語でした。
タイトルこの夜が明けたら
著者木村凌和
価格200円
ジャンルファンタジー
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さあ、たまごを用意して。
誰かを「生かす」ことが生きる喜びや動機になりえる、そんな心強さがありました。
食べて、眠る。それだけなのに、生きることは案外難しい。
そんな複雑さを解きほぐして、ごはんとして提供してくれるクモがいとおしく思えます。

物語の中にもついのべのエッセンスがたくさん散りばめられていて、そういった言葉の使い方がより想像を膨らませ、クモの生きざまを彩る仕掛けになっているように思えました。
また、クモは巣を作って待つ者、であると同時に
「苦も」なんじゃないかと感じました。後に続く何かを生み出すという意味で。
たくさんの「生きる」を作ったクモがちっとも変わらず、お説教臭くないのもとても魅力的です。
そして、もしかしてあの方を叱りつけて最果ての小屋を作らせたのはクモのお母さんなんじゃないか、とも思いました。何となく、考え方が似ているような気がして。


おいしいものを食べるとうれしい。
そんな根源的、根本的でささやかな、欲が満たされることの喜びを描く一作。
何度でも読み返したくなる魅力的な作品です。食いしん坊ばんざい!
タイトル最果て食堂
著者七歩
価格400円
ジャンルファンタジー
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手を合わせて唱える「いただきます」は祈りにも似て
待望の第二作。
クモと……というか、人間と食堂を訪れる人外の存在たちはきっとそれほど違わないんだろうなあと感じました。
食べる、殖える、生きる。
近いからこそ反発し、憎み、愛する。
欲望の対象になる。

名というのもそれで、定義してしまうと何かしらの情動のもとになってしまう。
けれど、それが「関わる」ということで、「認める」ということ。
柔らかな筆致で軽やかに描かれる濃密な生のいとなみ。じんわり効きます。
でっぷりした卵焼きが食べたいなあ。
タイトル最果て食堂2
著者七歩
価格400円
ジャンルファンタジー
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