「――ずっと、あなたに触れたかった」 囁くように耳元でそっと言葉を投げかけながら、どこか遠慮がちにそろりと背中に腕を回される。二人分のたっぷりと全身に吸い込んだ冷たく尖った冬の空気が混じり合い、そこから僅かに触れあった体温がやわらかに溶けていく。肯定の意志を示すようにゆっくりと遠慮がちに、それでも確かな意志を込めてコート越しの背中に腕を回し、俯いたままだった目線をそっと上げれば、今までに目にしたことのないような熱の籠もった強いまなざしが私を見下ろしてくれているのが分かる。 「有川さん?」 背中に回されていた腕が、ゆっくりと髪をなぞる。乞われるままに顔を上げてじっとそのまなざしを見つめ返せば、折り重なるようにそっと吐息を重ね合わせられる。
初めはほんの僅かに。すぐに首の角度を変えて、体重をかけるような重い口づけが重ね合わされる。途端に、凍てついていたはずの身体の奥がこらえようのない熱さに揺らされるのを感じて、目眩がしそうな心地を味わう。 触れたその先から形を辿っていくような、この奥に潜めた熱を手繰り寄せるかのような滑らかで熱い舌先の戯れと指先の動きに、もどかしさが加速していくのを感じる。不器用に舌を差しだし、首の角度を変えては身体ごと預けるように繰り返し何度も触れれば、きつく吸い上げられるその感覚に、触れた先からとろけてしまいそうなそんな錯覚を味わう。 触れれば熱くなる身体を持っている―そんなこと、当たり前の筈なのに。その熱をこんな風に差し出してもらえるだなんて、思いもしなかったのに。
痺れるような甘い戯れを幾度となく繰り返すそのうち、立っていることすらおぼつかなくなってしまう。縋りつくようにきつく腕を回したまま焦点の少しぶれたまなざしを向ければ、同じように熱にうなされたかのようなまなざしにきつく捕らわれる。 「……寝室へ」 囁くような微かな、それでいて、強くこちらを捕えて放そうとはしない熱情をたたえたその響きを前に、黙ったまま首を縦に振る。ようやくの思いで震えたままのつま先をパンプスから引き抜くようにして、促されるままに彼の後を追う。脈を打つ早さをどんどん増していく手首は、しなやかで少し冷たい彼のその掌に、最初に触れられた時よりもうんと強い力できつく捕らえられている。
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