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「性的虐待を受けた子ども」をテーマにした作品はたくさんある。「淅瀝の森で君を愛す」もその一つだ。幼少時に大きな性のトラウマを持つ少年〈なあ〉は、美しい容姿と「社会に適応しにくい不安定な精神」を併せ持つ。14歳の少女〈まお〉は、兄の再婚によって〈なあ〉と暮らし始めた。世話焼きの〈まお〉は、常識知らずの甥っ子の面倒を甲斐甲斐しくみる。家族的な絆の中で、〈なあ〉は腹を空かせた子どもが食べ物を貪るように、愛を得ようと〈まお〉を求める。その結果、〈なあ〉は大人になっていく中で、決定的な間違いを犯し、事態は急転する。 この物語は、虐待を受けた〈なあ〉自身ではなく、彼を救おうとする〈まお〉の視点から描かれている。可愛い天使のような〈なあ〉。そして、相手を愛する方法を知らない〈なあ〉。〈まお〉は、そんな〈なあ〉のありのままの姿を、受け入れようとしながらも、彼の病んだ世界に巻き込まれて傷ついていく。この物語の主人公は虐待の「被害者」ではなく、「その周りの人」である。 〈まお〉は〈なあ〉との依存関係に苦しみながら、徹底的に「〈他者〉を救おうとする〈自己〉」と向き合うことになる。〈まお〉はその過程の中で、自分もまた、世間一般とは異なる「人の愛し方」をすることに気づく。〈なあ〉との関係があったからこそ、〈まお〉は「人の愛し方」という問題から逃げることができなかった。その結果として〈自己〉のあり方を捉えなおし、相対化していくことができた。この小説は、14歳の少女が、「理解できない〈他者〉」の存在に悩み、葛藤することを通じて、大人の女性として成長し、自立していく道筋を描いているのだ。 「誰かを愛する」ということは、普遍化して定式化できるものではない。十人十色の愛し方がある。私たちは、それを「当たり前」だと思っている。なのに、日常生活では、ぼんやりと「恋愛」や「家族」のあるべき姿を、勝手に前提にしてしまう。だから、そんな日常生活が壊れて、「当たり前」が通用しない相手と取っ組み合って付き合ううちに、初めてその「人の愛し方」の規範は姿を現す。穏やかな生活を失うのと引き換えに、規範から解放され「愛すること」の自由を手にすることができるのだ。この物語は、「どうしようもない関係」の先にある、いや、あって欲しいと願うような「希望」を描こうとしている、と私は思った。 | ||
タイトル | 淅瀝の森で君を愛す | |
著者 | まるた曜子 | |
価格 | 500円 | |
ジャンル | 大衆小説 | |
詳細 | 書籍情報 |
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感情を表に出さない兄は、ひそかに死の恐怖に取り憑かれている。 一度、死に瀕した弟は、記憶を失い、生きる拠り所を失った。 寄り添うように生きる兄弟は、お互いにすれ違いながらも、求めあっている。 作品は終始、「死の匂い」が漂っていて不穏。 孤独な兄弟は、深海に沈んでいくようにうつろな日常を営んでいる。 作品は遺伝子操作などのSF的でドラマチックな設定を組み込んでいるが、 物語はアンバランスなくらいに淡々とした筆致で描かれる。 象徴化された「金魚」のモチーフによって揺らぐことなく一貫したストーリーが進む。 整った文章で、伝えたいものがきっちりと定まっており、読み応えがある。 | ||
タイトル | BBHHH | |
著者 | 森瀬ユウ | |
価格 | 700円 | |
ジャンル | 純文学 | |
詳細 | 書籍情報 |
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中学二年生の青葉は夏休みに叔父さんとセックスした。叔父さんは四十歳の元バレエダンサーで、いまも細くてきれいな体をしている。だけど、家で酒を飲んでゴロゴロして、時折、自分のダメさに泣いている。 青葉はこの社会性のない美しい生き物「叔父さん」を、自分なりに観察し、捕まえようとしている。そして、水ギョーザのように、白く柔らかい叔父さんの肉体を求める。 この作品の主人公青葉は、「正しく未来へ成長していく少年」だ。それに対して、叔父さんは過去にとらわれ、時間を止めて無為に生きている。二人が一緒にいるには、あんまりにも進むベクトルが違いすぎる。 少年のまっすぐな視線を通して、曖昧だった「大人と子どもの境目」がゆっくりと引き裂かれ、露わにされていく過程を描くような小説だった。 | ||
タイトル | 水ギョーザとの交接 | |
著者 | オカワダアキナ | |
価格 | 400円 | |
ジャンル | 大衆小説 | |
詳細 | 書籍情報 |
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高校教師の綾瀬は、昔、甥の大志を助けるために怪我をした。その後遺症で足を引きずって歩いている。そんな彼の元に現れたのは、高校生になった大志だった。いきなりプロポーズされて面食らい、逃げ回る綾瀬だが、世話を焼かれるうちに、彼のペースに飲まれてしまう。 年下攻めが健気で可愛いBL小説。年上で大人の綾瀬に対して、余裕をかましてリードしてあげたいのだけど、ところどころ、子どもなところが首を出して、二人の関係はゆらゆら揺れる。だからこそ、綾瀬もその揺らぎにあわせて、すっかりと年下の大志に甘えるようになってしまう。「大人-子ども」の関係は反転していき、日常に飲み込まれるように優しい恋愛関係が生まれる。ほんわかしながら、「え、それは変態では?」というような欲望がチラチラするところがエロい小説でした。 | ||
タイトル | くるぶしにくちづけ | |
著者 | まゆみ亜紀 | |
価格 | 600円 | |
ジャンル | JUNE | |
詳細 | 書籍情報 |
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美しい少年リオは、不器用であるが故の売れ残り。傷つき、孤独に心を閉じた少年を、買い取ってくれたのは優しい触手だった。触手はかたくなな少年を解きほぐし快楽に導いてくれる。 「求められたい」という少年の欲望に、いくらでも応えてくれる触手の寛容さにときめく小説だった。触手萌えでなくても、この触手は魅力的なので、きっと読者も心を溶かされてしまう。スパダリ触手という新しいキャラクターを作ってしまったまゆみさんはすごい。 そして、装丁がフランス製本になっており、美しいイラストともよくマッチしている。手元に置いておきたい一冊。 | ||
タイトル | プライベート・アドニス | |
著者 | まゆみ亜紀 | |
価格 | 500円 | |
ジャンル | JUNE | |
詳細 | 書籍情報 |
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まるた曜子さんの「花街ダイニング」は、女の子たちが身を立てていくことの「選択」がテーマ。過酷な状況から始まるけど、みんな可愛くてなんとかなるので、元気出したいときにおすすめ! 現実の児童虐待や人身売買、戦争や貧困とも重ねられる背景が色濃いが、西洋ファンタジー調の世界観で包んで、時折コメディタッチのドタバタ劇も挟んで、子どもたちの力強さに焦点が当てられる。まるさたんの、とっても深刻な話が元気良く進む作風は個性だなあと思います! 個人的にはレジーディアンやマーナが好きです。百合ってよりは、シスターフッドだ!ササヅキは、いい投資したね!お幸せに!!! | ||
タイトル | 花街ダイニング(R18Ver.) | |
著者 | まるた曜子 | |
価格 | 850円 | |
ジャンル | ファンタジー | |
詳細 | 書籍情報 |
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多くの人が「これは私も知っている話」だけど、書かないでおこうというところを、この作者は延々と書いてしまった、という、そういう小説です。いまだになんと書いていいのか分からないんですけど、ひたすらに誠実に内的感覚を追った作品だと思います。あるよね、こういうこと、と思って読みました。 | ||
タイトル | ほどけないで | |
著者 | 正岡紗季 | |
価格 | 200円 | |
ジャンル | 恋愛 | |
詳細 | 書籍情報 |