波の寄る辺 ほか 今晩は、桜鬼です。主に短篇、掌篇を書いています。近似ジャンルは純文学、幻想文学、詩等々。読むぶんには三好達治や梶井基次郎、永井荷風、森鷗外、ヘミングウェイあたりの作品が特に好きです。以下新刊『磯の口止め』より 食洗機の動き出す、くぐもった水音に蜜柑の皮からも汁が飛ぶ。「春姉、品川出たってよ」 シンクの縁に腰を預けて母はスマホをいじっていた。「何分前の話」「12:04」 現在時刻は一時前、仁波はのろのろこたつに埋まった気怠い身体を引き出した。芯の引っ込んだシャーペンで無駄に木目を突き、剥ききった蜜柑を房も割らずに放り込む。科目もごっちゃに散らかっている冬休みの宿題はまだ半分以上が残っていた。最後の晦日も間近に控えた年の末、師が走るほどの繁忙期も過ぎ去り親戚の集まる時期となる。父は早くも店を閉じ、伯父の家でいそいそと麻雀の卓を囲い込んでいるらしい。居間はいつになく静かだった。[Twitter][Website]Tweet 帆影 水門惺海 700円 詩歌 蜻蛉/混濁圏/鯉/天現寺橋/或る住宅/縮図/炎天下/終日/おたまじゃくしの透明/20.05/ 神殿跡/時をかける/神域/without the coat/夏檸檬、/breaktime/銀鴎/early morning/ 鴎を眺めに往ける日は/黎明/練習風景/花曇りの薬玉 磯の口止め 桜鬼 400円 ほか ★推薦文を読む 短篇小説。 海の幸に恵まれた磯の近くに住む仁波と、東京の大学へ通う春姉、親戚の中でも近しいふたりはそれぞれ密かに息を吐く。 天使の番 桜鬼 700円 ほか ★推薦文を読む 風情が、美が、情欲や人情に先行する…… 情景が語りだす旅の短篇小説、また或いは浮世からの解放