八月雑詠

川蟹や煉獄の火を掲げをり

夏深し鯨ヶ丘に塩の道

漬物の青は秋風へと移る

地下街のがらくた尖る天の川

八月の雨に雨つぐ黒電話

終戦の日や指の腹はぼろぼろ

忘却にへこむ額よ秋涼し

歯並びは鬼ゆづりなり蓼の花

赤のまま取集時刻は消えてゐる

不知火やβ世界線のたわし

左手は布巾にくるむ芙蓉かな

暦師の版木色褪す水澄みて

空赤き北極の絵よ秋の暮

忘れ井戸悲しき星月夜を吐く

密告の魚を洗ふ稲光

  ■ 牟礼鯨

都々逸「砂」

海になろうか砂になろうか渚でまようひとり泣き

かわいそうねかわいそうねせっかく創った砂の城

ほんとうのことを砂地に書いて波にのませてさようなら

砂だけは夏水は冷たく季節をしらないわからずや

サンドストーム青い世界の王様は言う「死ねばいい」

 

        ■ にゃんしー

「鍍金的深夜のファミレス」

でたらめに星が並んだ夜のこと 目を光らせて出かける準備

お星さまの評論家気取り彼氏気取りにぎやかな深夜のファミレス

星同士のケンカだパンチが当たるたび夜空に上がるぐちゃぐちゃな星

来年の花火は一緒に見ようね、とコメット・ハレーと約束したこと

図書館で迷うというのは本たちに愛されている証拠なのだよ

おおい、ぼくだ。いい子にしてれば小さな死をあげるよ窓を開けておいてね

視えなくても残った絆があるかぎりトゥインクルぼくはだまされないぞ

戦いは昨日の明日 おとうとは短歌バイキングで腹いっぱい

絶対に泣かないことを条件に星の紳士に会わせてあげる

彗星にみんな何かを盗まれて、恥ずかしいから話はおしまい。

       ■ 壬生キヨム

「足で立つこと」

村長の家を訪ねる海賊に名を奪われた星をたよりに

想像と違った味だ失ったものを探せぬひとのスープは

ぼくはぼくだ初歩的な考え方だ孤独のために砂漠を歩く

何も無いところでみつけるいちめんの砂つぶ・孤独・美しい井戸

いつまでも憎まれたまま黙ってるかつては空をたがやしたひと

砂を掘る みつけることは選ぶこと そのさみしさが今ならわかるよ

ル・プチ・プランス最後のページにそっくりな景色の中で眠り心地だ

あこがれを詰め込み砂漠の図書館で見たことのないあおをみつける

どの子どもも寝る必要がある食べる必要がある足で立つこと

光は敵 孤独をうつす目を持ったフェネックきみを飼いならしたい

       ■ 壬生キヨム

「砂」題詠

この岩が砂になるまでわたくしはきっとあなたを待っていましょう

星砂はいのちの残滓こんなにもたくさんみんなどこへ行ったの

砂嵐眺めるヒトデ、海綿はワーカホリック。アニメの話。

砂を噛むようなと例えた人はさて砂を噛んだりしたのかどうか

何処からか入り込んでた砂つぶがザリリと廊下で鳴ったため息

       ■ 朝凪空也

「砂」題詠

風緩む館山の春の砂浜で 友とふたりただ波を聴く

思い立ち砂を握りて手を開く 落つる砂の音は波に消されて

手の砂を払いしあとに振り向けば ただ名も知らぬ海草のみある

ふと見れば砂中に半ば埋もれたる 巻き貝の殻そっと手に取る

引き潮に取り残されたる貝の殻 滴る砂の虚しきことかな

       ■ 偲川遙

「旅と砂と日々」

育ちゆえ海に慣れないままだから砂から硝石ばかりを拾ふ

砂浜でサンダルに付いた微粒子を何処まで持ち帰れば旅だつた

光から家に帰れば平日の埃か砂か倦怠なのか

はてしないいつかの物語のなかの仄かに色づく砂丘の群れよ

大切な海の硝石をテーブルの隅に溜めれば砂粒残る

日常は箒を持たない人間が砂を掃きたい綺麗にしたい

それは夢それは現実だつたから口から砂を噎せながら吐く

家のなか視えない砂が掃き溜まり這ひ蹲る這ひ蹲つてゐる

砂に生まれ露に暮らした人生の終焉がまだ地平に見えず

水の音が遠く遠くにささやけく砂を捨てずに季節を過ごす

       ■ 泉由良