夢をみていた。
また、あの夢をみた。近頃よくみる夢。
珈琲に牛乳を注いで、スプンでくるくる混ぜながら、ぼんやり考える。あの子が出てきた。夢のなかで、あの子とおやつを食べた。でも、あの子、誰なのだろうか、それが思い出せない。赤いマグカップにくちをつける。まだ少し眠い。朝は、珈琲をのまないと、眠くてあたまが働かない。今日もカフェオレをのむうちに目が覚めてきたのだろう、様々な用事のことを思い出してきて、今日の仕事の段取りを考え始めた。今日は。残業かも知れないな。
ここのところよく夢をみる気がする。夢はいつもみているけれど憶えていないことが多いのだという話を聞いたことがあるけれど、その考え方で云うと、最近よく夢を憶えている気がする。別に眠りが浅いわけではないと思うのだけれど。毎日憶えているあの夢は、けれども悪い夢ではなくて、わたしは夢のなかで幸福な気分だ。楽しく過ごしている、誰かと一緒に。でも、その誰かが、誰なのかだけが、憶えていられない。何度も同じような夢をみるのに、目覚めると文字が消えかけて不明瞭な手紙のように、霞の向こうにいってしまうあの子のこと。あの子、誰なのだろう、思い出せない……。
毎日、色々なことがあって、そして毎日、色々なことを忘れてしまう。
そういう上書き更新みたいな仕組みで、過ごしている。
何でもないことだ。
時が流れると、あったことが、なくなっていく。
今はもうない。
忘れてしまったことは、ない、ということなのだろうか。