勇気ある者よ 死んでしまうとは情けない
傷つく者を癒し 死に魅入られた者に救済を与えよう
これは宣託である
さあ、再びその身体に神の祝福と加護があらん……
朗々と響く厳かな「声」は、そこで唐突に途切れた。
「なんだお前か」
「酷い! 最後まで『宣託』くらい言いなさいよ!」
先程までの厳かな声とはうって変わって、呆れを滲ませた男の声に、甲高い声が猛然と抗議をがなりたてる。
「これが最後まで言ってない、ということが分かるほど『宣託』を聞いてるだろう」
「うぐ!」
男の声に、思わず呻く声が響くが、もちろん黙っていたのは一瞬である。
「だとしても! 職業放棄せず、最後まで告げるものよ!」
なおも騒ぐ声に、彼はこめかみに指を当て、ため息をついた。
「毎度のことではあるが、本当にうるさいな。慣れ過ぎだろう」
「な、慣れてるわけじゃないわよ! ただ、ちょーっとだけ、ここに来る回数が多いだけよ!」
「その時点で、すでに『死んで』いる回数が多いわけだが」
「うぐう」
再び言い負かされた少女がようやく黙ると、男は大きくため息をついた。
「やれやれ、リョウ。職業選択の自由があるとはいえ、いい加減転職を考えたらどうだ。『勇者』なんてやるものじゃないぞ?」
男の声に、さらに声の主……リョウが呻く。
「いいか、『勇者』といえば、愛と勇気と希望と、オールマイティーな能力と、絶妙な抜け加減が必要な職業だ。お前、『抜け』しかないだろう」
「酷い!?」
リョウの叫ぶ声に、しかし男はさらに続ける。
「いくら権利とはいえ、外にでては『死んで』しまい、この教会に戻ってきては『死んでしまうとは情けない』という宣託を受けながら『生き返る』とは言ってもだな、こう毎日来られてはたまらないのだが」
「毎日じゃないもん! 昨日は来なかったもん!」
「休みで寝てたからな」
「うぐう」
再びリョウが呻いて黙る。
「とにかく、ここは『教会』だ。何度でも冒険者を受け入れはするが、俺はそろそろお前の顔は見飽きた」
「見飽きたとか幼馴染に言う言葉か!?」
「幼馴染だからこそ見飽きたあげく、職場でもお前を見るとかどんな罰ゲームだ」
「さらに酷い!?」
本当に先ほどまで静かに『死んで』いたとはとても思えないほど、リョウは喜怒哀楽に忙しい。
「だったらあんたが付いてきてくれればいいでしょ! この筋肉お化け! なんでその身体で『僧侶』なのよ!」
―――作品冒頭から抜粋