(「展示物三 カメレオンの恋愛手法」)
「もう耐えられない、結婚して」
そう呟いただけで、私とキスもしたことないくせに、その人は嬉しそうに「本当?」と聞いた。
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付き合っていたはずのひとは勝手にどこぞと知れぬ女のものになっていて、他人と伴侶を共有するなんて気持ち悪いからすぐに振った。
とにかく不快でたまらなくて、吐き気はするし下痢もあるしなんだかノロウィルスにでも感染したみたい。薬代わりにワインを飲んで、すぐに寝た。そして別に追いかけてくれると思っていたわけではなかったのに、翌朝スタンプすら送られてきてないLINEのトーク画面を見て、私たちの二年間は一体なんだったのだろうと絶望した。
その反面、いまゼクシィを勝手に買ってきて私の横で嬉しそうに読んでる彼は、一年も前にお断りしたのにずっと私のことが好きだったらしい。その一年間、私はこの人をまるっきり放っておいて元カレに尽くしていた。努力って、あてにならない。
私は結婚がしたくて、それも普通の結婚では嫌で、なんでもいいというわけじゃなかった。女性であるという理由だけで結婚しようと言われるのも、家事力や経済力を目当てにされるのも、若さや美しさだけで求められるのも嫌で、ただ、愛してるという理由だけで選んで欲しかったし、選びたかった。
なまじ良い職について、自立しているだけに、ただ生活するだけなら私は一人でも生きていける。だからこそ、相手にも、僕の人生には実は女性はいらないんです。でも、貴方を知ってしまったので、どうしても欲しくなりました。結婚してください。というようなプロポーズがされたい。
ついでに言うなら子供が欲しいからと結婚されるのも嫌だった。家族になるのは私だけ。私だけを目当てに結婚して欲しい。
ねえ、と、今や婚約者となった彼に迫ると、これ以上ないぐらい気を使った瞳でこちらを向く男がいる。
この幸せを、なぜ、今、彼から手に入れられるのか分からない。彼がどうして、私のことをずっと好きだったのか分からない。
「ずっと、彼女は作ってなかったの?」
私がそう聞くと彼は少し考えるようにしてから、そうだねと答えた。
補足するように、五年いなかった、と付け加える優しさ。