一.或るメール
マグマ先生、よろしくお願いします。
事の起こりは半年ほど前でしょうか。
スーパーで買い物をしているとき、ふと母が好きだった銘柄のカップラーメンが目にとまったのです。ちょうど実家で母の三回忌を済ませたばかりでしたので、仏壇にでも供えてやろうと思い、買って帰ることにしました。
生前、母はよく夜の九時ごろになると「ちょっと小腹が減ったわぁ」と言いながらいそいそと台所へ行きお湯を沸かしていました。テレビの二時間ドラマや吹き替え版の洋画を見ながら夜食にカップラーメンを食べるのが好きだったのです。
私はそうしたものは食べないようにしていました。
子供の頃はたまに食べていたかもしれませんが、大人になってからはできるだけ体にいいものを摂るように心がけていました。十八歳で実家を出て一人暮らしを始めましたので、もう二十二年近くになります。常に美容と健康に気を使い、野菜中心のメニューやオーガニック食材を取り入れていますし、カップ麺やスナック菓子、ファーストフードの類は食べません。普段から正しい食生活をしているので、添加物の多いものを食べると味がきつく感じられるのです。自分の体の声を丁寧に聞いて、体が欲するものを適量食べることがやっぱり正しいんですね。
私がもし寝る前に空腹感を感じたら、国産の蜂蜜をひとさじ加えたホットミルクをゆっくりと一杯。それで十分だったんです。
ですから帰省するたびに、母が嬉しそうに背中を丸めてテレビの前でカップラーメンを啜る姿がなんだか不健康で、貧乏くさく感じられて嫌だったものです。
一人暮らしのマンションに帰る前の晩、ふと空腹感を感じました。
ですが父の一人暮らしとなった実家には、国産蜂蜜はもちろん、牛乳の買い置きすらありません。もちろん豆乳もチアシードドリンクもありません。あるのは甘いパック入りのアイスコーヒーとか、マーガリンとか、だしの素とか、まずそうなものばかりです。
その時、ふとカップラーメンのことを思い出したのです。
普段の私なら絶対そんなものは食べません。でもなぜかその時は食べてみようと思い、私はまっすぐ仏壇に向かいました。
居間で父が見ているテレビはSFもののハリウッド映画でした。CMのうるさい音楽を聞きながら私はお湯を沸かし、カップに注ぎ入れました。
そして、なぜだかそのカップラーメンがとても美味しく感じられたのです。
(作:羆たけし)