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あまぶんウェブショップ

販売は2021年7月31日をもって終了しました。
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  • ワスレナウタ

    あずみ
    1700円
    エンタメ
    ★推薦文を読む

  • "どうか、堕ちてきて、ここまで。"
    妬みと恋情の狭間で。切なく胸焦がすガールズラブ。

    閉鎖都市アンジェリカでは、審査を経て選ばれた只ひとりの歌姫を〈 天使 〉と崇めている。
    稀代の歌姫レシカ・カネーレに侍女として仕えるジラは、かつて審査に臨み、彼女とその座を競ったライバルでもあった。
    不遇の境遇を〈 歌 〉に縋って覆そうとしたジラは、恵まれたお嬢さまであるレシカに敗れ、清濁織り交ぜた葛藤に灼かれながら十年の時を過ごす。
    しかし、レシカに縁談話が出たことで、危うい均衡に罅が入り――。

    憧憬、苦悩、嫉妬、情熱、執念。
    同性同士ゆえの、名前をつけきらない感情が交錯する、呼吸が詰まるようなガールズラブ。

    |文庫サイズ|フルカラーカバー+帯+しおり付|530頁|

試し読み

「ジラ。起こして」
「……はい。お嬢さま」
 ジラはそっと絹の上掛けを少女から引き剥がすと、片膝を寝台の上に乗せた。
 体温であたたまったシーツとレシカの背中の間に、慎重に手を差し入れる。
 ワルツを踊るように華奢な体を引き寄せれば、その首筋から、甘い汗の香りが仄かに立ちのぼった。
 レシカはあくび混じりで顔を洗うと、前を濡らした夜着を脱ぎ、朝用の白いガウンを羽織る。
 化粧台の前に腰掛けるのを見計らって、ジラはその場で淹れたばかりの紅茶を供した。
 そうしてから、レシカのみつあみをほどき、緩く波打つ金髪を琥珀の櫛で梳き分け始める。
 香油を含ませて背中まである髪に艶を与え、体を揉みほぐして白い膚の血色を良くし、化粧を施して歌姫の表情に崇高さと翳りを添える、神経質なまでに丹念な仕事を侍女が行う間、レシカは微笑を浮かべ、機嫌良く気に入りの愛唱歌をハミングしているのが常だった。
 それは窓の外の小鳥とさえずり合っているような調子の代物で、正しい発声練習とはとても言えなかったが、いざ彼女が人前に立ち、少女合唱団の独唱者として歌う時、素通りできる者はほとんどいなくなる。
 ――レシカ・カネーレは、天使の声を持っている。
 そのことを知らない者など、この街にはいないだろう。
 アンジェリカと名付けられ、天使のモティーフを偏愛する独立市の住人たちは、思い入れや特別な熱、あるいは信仰を伴って、聖堂で神に祝福された声を響かせるひとりの歌姫のことを、数代に渡り、天使と呼び換えていた。
 代替わりを経て、現在、その至上の地位にあるのが、ジラの目の前にいる「お嬢さま」だ。
 彼女はただ見目良く声麗しいというだけの、十七歳の少女に過ぎないのに。
 レシカの髪を優しく梳りながら、ジラは醒めきった気持ちでいる。
 年は同じ。にもかかわらず、自分にはない何もかもを持つ名家の少女。
 確かに彼女の声は素晴らしい。けれどそれだけ。
 その比類なき喉とすべらかな頬に疵ひとつでもつけば、彼女の価値は失われる。
 人が天使に求めるのは、自らが到達できない完成形、穢れひとつない美なのだから。

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「歌」と「声」が彼女たちを繋ぎ、時に離れ、それでも。

こんなに心を揺さぶられ、疑って、でもきれいなきれいな、天使の物語だった。なにかを表現するとひとの、深い愛の話。
だがしかし「愛」というものは、いつだって慈愛に満ちて、心穏やかにいられるものではないと、話を読んでいて感じる。
それは、ジラがレシカに向ける感情、そのまた逆。レシカの婚約者であるアルノルトや、お針子のノーマ、そして年若いミルクロクなども。
羨望、嫉妬……それでもその感情一つ一つには、たくさんの想いと情が詰まっていて、いつ読んでも胸が苦しくなると共に、おこがましくも登場人物たちの気持ちに寄り添って隣にいたいと思うほど、共感とあこがれを抱いてしまいます。

ジラが向けるレシカへの想い、レシカが秘めた感情。歌という、美しくも儚くて、それでも心の奥深くに入り込むことのできる行為で交わされ、時にすれ違う二人のドラマは必見です。

服部匠

人は決して同じ世界を見られない

 歌姫たちの切なく、苦しく、身を切るような愛の物語です。
 表現すること、目指すこと、生きていくこと。誰の胸にもチクリと突き刺さるテーマかもしれません。ラストに向かって移り変わっていくジラの心境には身につまされるものがあります。
 痛いほど「欲しいもの」に手を伸ばそうとしていたレシカ。遠回りをしたジラ。人は決して同じ世界を見ているわけではない、ということをしみじみと感じさせます。
「嘘」と「真実」とはとても曖昧なものなのかもしれません。

藍間真珠