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あまぶんウェブショップ

販売は2021年7月31日をもって終了しました。
たくさんのご注文をありがとうございました。
  • ダレンと5つの心の扉

    くまっこ/七歩/三明結都/実駒/らし/高梨來
    800円
    大衆小説
    ★推薦文を読む

  • 山間の小さなその町には不思議な噂がありました。毎週土曜の昼下がりに開かれる告解室で牧師様一家の愛犬ダレンが皆の悩みを聞いてくれるらしい、というものです。
    お喋りをする不思議な犬ダレンと悩める人々とのやり取りをつづったアンソロジーです。

    糸綴じ特製手製本+手紙のセットになっています。


    【登場する方々とお悩み】
    ・お兄さんのように立派になりたい少年
    ・家族と話すための「最初の言葉」に迷う家出娘
    ・「ぶどう語」がわからないことに悩む農家の青年
    ・お母さんとの関係に悩む少年
    ・婚約者の変化に戸惑うお嬢様
    ・離れて暮らすようになった姉へと親友にまつわる不思議な噂話を教えてくれる青年の書いた手紙

試し読み

「伝えたい言葉」くまっこ


 丘の上から続く道には、長い人の列が伸びていた。
進みの遅すぎるそれを呆然と眺め、少年は肩を落とす。大層な評判と聞いてはいたけれど、こんなに人が集まっているとは。
オレンジ色の屋根の教会。土曜の昼下がりに開かれる告解室は、誰もが求める答えを導いてくれるという。
けれども、救いを求め焦る少年には、この風景が絶望的に思えた。教会に向かう姿を誰にも見られたくなくて、遅い時間を選んだのが間違いだったか。
少年は人目を避けるため、木陰に身を寄せていた。こんなことでは、少年に扉が開かれることはないだろう。それでも、少年はその場から立ち去ることができなかった。教会にいざなわれる人をぼんやりと見送るうちに日は暮れ、最後の一人がその場を去ったときにはもう、辺りは闇に満ちていて、少年はランプを持っていなかったことを後悔した。
「もう、家に帰らないと」
遠くに見えるガス灯を頼りに、来た道を戻るしかない。重い腰をあげたそのとき、視界の端に、黒い影が動くのが見えた。人、ではない。それは獣の尻尾のように見えて、少年は身震いをした。
「どうしよう……」
ここは田舎ではあるけれど、人を襲う獣が出るほどの場所ではない。大丈夫、と自分に言い聞かせ踏み出した後ろで、「ギギギギィー」と大きな音が鳴り、少年は飛び上がった。体の外にも漏れ聞こえそうな心臓の音を手で抑えて振り向くと、閉められたはずの扉が開かれていた。

「ずいぶんとお待たせしてしまったようで、申し訳ありません」
「あの、僕……」
「今日はあなたで終わりですから、ゆっくり話してくださって構いませんよ」
何から話せばいいのかと言葉を詰まらせた少年に、声の主は優しく言う。若々しい青年の声だった。そういえばこの教会は、見習いの牧師が話を聴いてくれるのだったかと、街の噂話を思い出す。歳が近いのかもしれないと思うと、少年の緊張は少しだけ和らいだ。
「僕、兄のようになりたいんです。兄は僕と違って頭が良くて、頼りになって、都会の学校に行って……お医者になる人でした」
「お兄さんを尊敬しているのですね」
「……はい。でも僕、勉強は苦手で」
俯いて声を落とす少年の様子は、ただ自分の将来を憂いているだけのようには見えない。衝立の向こうにも、それは伝わっているようだった。
「どうしてお兄さんみたいになりたいのですか?」
「母を、喜ばせたくて」

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穏やかで優しい風を心に吹かせてくれる、一風変わったアンソロジー

「だったらダレンに聞いてみなよ」

 最近巷で評判の、告解室で人々の悩みを聞いてくれるという青年は、牧師一家の飼犬ダレンだという。犬がなぜ、人間の言葉を細部まで理解し、そして話せるのか。この本で、その謎が明かされることはない。
 ただただ小さな告解室のなかで、ダレンが悩める人の言葉に耳を傾け、そして対話をする……。この本は、その告解室でのやり取り、一部始終を覗くことのできる、一風変わったアンソロジーです。

 この本はアンソロジーなので、個々の作家さんが物語を持ち寄っているという形式なのだけれど、読み終われば、まるでダレンがやり取りしたであろう多くの人の話のなかから、5つのエピソードを選り抜いたかのような、一般的なアンソロジーとは少しちがう読後感で。「この5つの話だけは、君に知ってほしかったんだよ」と、その世界の誰かに囁かれているような、そんな錯覚に陥るほどに、ダレンの世界に入り込める1冊でした。

 お悩みを聴いてくれるダレンが一貫しているのは、誰も否定しないこと、言葉を受け入れること、相手の心の底にあるものを引き出すこと。
 ああ、対話って、こんなにも美しいものなんだな。悩みって、結局は自分で何かに気づいて、そうして解決したり、解決できなくても別の何かを見つけたりしてゆくためのものなんだな。その気づいたり見つけたりのための美しい対話を、大切なひとや大好きなひととしたいな。
 そんな、穏やかで優しい風を心に吹かせてくれる本に出逢えて、私は幸せです。

くまっこ

「わたし」と「あなた」、「理解」の地平を求める旅

 わたしはあなたを理解できているのだろうか?
 あなたはわたしを理解してくれているのだろうか?

 ひとはたいてい、そういう「理解」について「だいたいのあたり」をつけて生きている。
 つまり、
「わたし」は「あなた」を理解している、そう信じている。
 これは「わたし」と「あなた」の場所が変わっても同じだ。
 そういう「確信」がないと、ひとは安心してコミュニケーションがとれない。
 そして「わたし」は「あなた」が理解できない、あるいは「あなた」は「わたし」を理解してくれない、もしくは「理解していると思っていたのにそうでなかった」時……ひとはときとして無力感や絶望、焦燥感に襲われる。相手を信じられなくなるかもしれない。

 言葉とは不自由なコミュニケーションツールだ。
 どれだけ言葉を尽くしても伝えられないことはある。
 携帯電話、電子メール……言葉を交わす手段は増えたけれども、ひとは対面で話すことを望む。それは言葉以外のものが伝える豊穣さを知っているからだ。
(あるいは対面で話すことを極度に嫌うひともいるだろう。それは上記の裏返しである。言葉以外のものが伝える豊穣さが煩わしく、恐ろしい瞬間が、ひとには常に存在する)

「ダレンと5つの心の扉」とは、そういう不安に寄り添う物語である。


 そばにいる。けれど分かりたくても、分からない。
 そばにいる。だから分かってほしくても、分かってもらえない。
 「わたし」は「あなた」のそばにいるのに、その姿が見えているのに、心が見えない。
 もしかすると……そう、もしかすると、「わたし」と「あなた」が分かりあうなど、幻想に過ぎないのかもしれない。その淡くて深い悲しみ。
 けれども「わたし」と「あなた」の関係が途切れないなら、言葉を尽くすことを諦めないで。
 犬でありながら、人の言葉を手に入れたダレンは、人に寄り添いながら、語りかけます。
 そう、この物語は、「わたし」と「あなた」の「理解」の地平を求める旅の、5つの始まりの扉……

どうぞ、三明さんのかわいいイラスト、主宰高梨来さんの優しい装丁(表紙をめくると隅にかわいい型抜き足跡!)に誘われて、対話を巡る旅の扉を開いてみてください。

宮田秩早

丘の上の教会の告解室の主についての証言

教会の告解室のうわさですよね。ええ、知っています。ずいぶん評判になっているんですよ。すこし前までは牧師さまがお話を聞いてくださっていたんですが、このところはあたらしく来られた見習いの方がお仕事をされているらしくって。
それが、みなお顔を拝見したことがないのですよね。ミサの日にもそれらしい方はいらっしゃらないんです。
いろんな噂がありますよ。見目麗しいハンサムだとか、実は男装の麗人なんだとか。しまいには喋っているのは犬のダレンだ、なんて言い出す人までいる始末です。
不思議ですよね、誰がそんなことを言い出したんだか。それでもなぜか納得できるんですよ。ダレンは牧師さま一家もご自慢のとっても賢くて優しい子ですからね。

みんなダレンにどんなことを聞いてもらってるのか、ですか。
どうやら家族との関係に悩んでいる、だなんて人が多いみたいですよ。お母さんとうまく話せなくて悩んでいる息子さんだとか、家出をしていた女の子もいたそうで。
そうそう、リュンヌさんのお坊ちゃんのところに新しくいらした家庭教師の青年もよく見かけますよ。なんでも、お坊ちゃんにも彼が勧めたそうです、「ダレンと話をしてみたら」って。ずいぶん風変わりな方だと評判ですが、どうやらあの気難しやの坊ちゃんとは相性がいいみたいですね。
あとは「ぶどう語はどうすればわかるんだ!」と図書館で叫んでいた農家の青年もいましたね。ぶどう語だなんて聞いたことがあります? ダレンはどう答えたんでしょうね。
こないだは丘向こうのお屋敷のお嬢様がいらっしゃいました。そろそろ結婚を控えてらっしゃいましたから、将来のことでお悩みだったようです。

え、やけに詳しいけれどあんたは誰だって? いやいや、そんなこと答えられるわけないじゃないですか……みんなが何を相談したのかはそこにある鍵のついたノートに記録されていますよ。ご興味がおありでしたら読んでみられたらいかがですか。相談者は5人、いまお話したみんなの顛末が物語のように綴られています。
おや、手紙も挟まっていますね。差出人は彼の親友の盲目の青年――会ったことがありますよ。隣町に住んでいるダレンともとびきり仲良しの彼ですよね。
これを読めば謎めいた『彼』の正体のヒントがわかりそうですね。

高梨來