『え、待って待って待って。なんて言った?』
ディスプレイに映ったタマちゃんが眉間に皺を寄せる。あお髪のポニーテール、まるいのに鋭い眼つき、すっきりとした顎と鼻筋はデータであることを差し引いてもとてもきれいな女の子だ。そんな顔も、タマちゃんが片手で頭を抱えたからそれ以上は見えない。
私のひいおばあちゃんにあたるタマちゃんの、私と同い年だった頃をシミュレートしたデータ・・・・・・らしいけど、私達からすれば感覚はタイムスリップだ。過去のヒトと話している。本当にタイムスリップなんだっけ? 施設利用時に毎回受ける額面通りの説明がなんとなく頭の中を駆けめぐる。指定時間から観測したデータを再現しているだけ、過去干渉によって起きた大事故の再発を防ぐため、うんぬん。結局シミュレートじゃん。
「じゃもう一回ね」
十七歳のタマちゃんに、私の表情と発言を入力した反応が再生される。タマちゃんは鋭い眼をぐんにゃりさせて、手で私に先を促す。
「うちに帰ったら、シェアメイトの蟹が《カルサイト》のキャリーに告白してたの」
事は二十四時間前に遡る。
※※※
14:33:05 pm
室温変更24.0℃
挙動翻訳・・・・・・・・・・・・
「キャリー、愛しています」
「はいいいいいいい?」
「お帰りなさい、アキ。なにもありませんでしたよ。わたくしがいるから当然ですが」
思わず大声をあげると、キャリーが声をすっ飛ばしてきた。リビングのスピーカーからだからだいぶ大音量だ。淡々とした素っ気なく冷たい声だけど、照れ隠しであることを私はちゃあんと知っている。
私は月一の登校日から帰ってすぐ、部屋のログを一日分確認したところだった。
私とキャリー、蟹がシェアする部屋は私の所有物だ。だから部屋の管理責任は私にある。一応。ほとんど部屋を管理し掌握しているのは《カルサイト》であるキャリーだった。キャリーがいる限りなにも起こりようはないんだけど、管理責任として一日部屋で起こったことを玄関のモニターで斜め読みして、なにもなかったことを確認するはずだった。