誰かを追いかけている。
胸がすうすうする。会いたい。戻りたい。でもあなたは誰だっけ? しろくぼやけた視界にひとつが人影があるのに、どんどん先に行かれてしまう。待って。待って。手を思いっきり伸ばして、届いた。私の手よりもひとまわり小さい手のひら。しっとりしてあたたかい。人影が振り返る。びっくりした顔は、
「あ、秋穂(あきほ)?」
細い黒髪のツインテール。小さな顔の切れ長の眼がまんまるに、小さな口はすぼめられている。
どう、真後ろをトラックが通り過ぎていった。パッパー、どこかのクラクション、人の話し声が聞こえる。
「暮(くれ)葉(は)、やっと起きた?」
「え、私、立ったまま寝てた?」
「立ったまま寝てた」
親友の来(くる)海(み)秋穂は呆れた目で私を見る。東(ひがし)野(の)暮葉を。
朝は強いほうなのに、納得いかない。まだ夢の中にいるみたいだ。秋穂に手を引かれて校門をくぐっても全く実感が湧かなかった。
「慣れない徹夜なんかするから。お兄さんが帰ってこなかったんでしょ」
「あ! そう! そうだった! そうなの!」
びびっと、一気に全部が繋がった。そんな感じ。足の裏が地面についていて、立っている。お兄ちゃんが帰ってきてない。そうだった、それであんな夢を見て、こんなにふらふらしていたんだ。
「はいはい。今朝だけで五十回は聞いた。どうせふらっと帰ってくるって」
そうだった、秋穂が全然相手にしてくれないんだった。そうじゃなくて! 聞いて欲しくてあれこれ言い方を変えてみるけど秋穂にそっぽを向かれてしまう。