ニューオーリンズは夏の熱気にあふれていた。新米警官のケイト・マクウェルは、サングラスの向こうに見えるはりきりすぎた太陽を睨んだ。配属されて初めての事件が五年も未解決だったものだと知ったときは、まさかこんなことになるとは思いもしなかった。警官という職業への憧れは遠い日に捨てたはずだったが、まだ心の奥深くに残りカスがあったらしい。まるで見放されたような事件の担当にされたマクウェルは、新米特有の大きなやる気がしぼんだのを感じた。それでも地道な捜査(といってもすでに事件発生当時にやりつくされたことをなぞるだけのようなそれ)のおかげか、こうして解決まであと一歩のところにきたわけである。
マクウェルは初めての事件が解決を迎えることに対して、妙な高揚感をおぼえていた。焦りのようなものもあったかもしれない。車から降りると同時に、携帯していた銃を取り出し、構えた。全く不謹慎ながら彼は「今の自分はとても警官らしいことをしている」という興奮状態でもあった。
港近くに停車した三台の車には、警官が二人ずつ乗っていた。マクウェルとペアを組んでいたのは、彼の教育係に任命されていたキャロル・レディントンだった。彼女は射撃の命中率で署内外から一目置かれている存在だ。マクウェルはわかりやすく彼女に憧れ、成果を報告しては褒められるのを全身で喜ぶ懐きぶりで、今や署内での名物となっている。
車の反対側でサングラスを外したキャロルを視界の端に捉え、何故、と思う。こんなにもまぶしいのに。いくら命中率が抜群だろうと、まぶしさに目が眩んでは当たるものも当たらないだろうに。
睨んでいた太陽から視線を下げれば、そこには二人の少年がいる。潮の匂いが漂い、湿気と汗が髪を顔にはりつかせていた。これこそがニューオーリンズだといわんばかりの夏だった。グリップを握る手にも汗が絶え間なく、すべらないよう変な力がはいる。キャロルもそうなのだろうかと考える暇はない。今は目の前の少年たちに集中しなければ。
「銃をこちらへ!」
キャロルがよく通る声で彼らに話しかけた。話しかけたというよりも、それは命令に近かった。
銃を持った年上の少年も、彼に手を引かれている年下の少年も、二人そろって怯えた目をしている。マクウェルの予想とは全く違った反応であった。妄想の中では小さな彼は人質のはずで、大きな彼は少年を乱暴に扱っていなければならなかった。