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あまぶんウェブショップ

販売は2021年7月31日をもって終了しました。
たくさんのご注文をありがとうございました。
  • 白い魚

    湖上比恋乃
    800円
    大衆小説
    ★推薦文を読む

  • 夏、水辺、少年少女をキーワードにしたような、短編集。
    【十五のあ】書き下ろし
    祖父の住む村にある人魚がくるという磯浜を半信半疑で訪れた少年。

    【弔いのりんご飴】web夏企画参加作品
    髪に海を飼う呪いを受けた友人のことを、夏祭りの夜に思い出す少女。

    【白い魚】pixiv掲載作品
    同級生の腕に鱗があるのを見つけてしまった少女。
    (白い魚)

試し読み

 律子のクラスには不思議な男子生徒がいた。おおよその時間をひとりで過ごし、ときおり年不相応な顔で笑う。それを憂い、と呼ぶことを知ったのは、六月に実施された読書週間でだった。
 あれがきっと、憂い、なんだ。
 文章をなぞったとき彼の顔が浮かんでいた。目の前の席には他の生徒と同じような背中がある。でもやはりどこか、異質な雰囲気をまとっていると感じていた。具体的には答えられないが、きっと誰しも衣魚京介には同じ印象を抱いていると律子は信じていた。
 衣魚、という名字はこの村に一軒しかない。代々魚女神社の神主をしている家系だ。その出自と彼の雰囲気とが相まって、少し浮いた存在だった。

 事の起こりは夏休み前、終業式の日だった。
「衣魚くん」
 宿題に必要な教科書を忘れて帰った律子は、放課後再び教室を訪れていた。静かな校舎には響きすぎる音を立ててドアを開けると、他に誰もいないはずのそこに一人いた。
「三枝さん、どうしたの?」
「衣魚くんこそ」
 窓際のいちばん前が京介で、そのうしろが律子の席だった。
「私は、教科書取りにきたの」
 机の中に手を入れながら話す。目当てのものはすぐ見つかった。
 ほら、これ。
 顔の横に掲げる。そうしてから胸に抱いて、用事はすんだけれどすぐには立ち去れない空気に気まずさを感じていた。
「衣魚くんも、忘れもの?」
 絶対違うと思いながらも、律子は尋ねるしかなかった。そのとき、窓枠に後ろ手をついて腰掛けるようにしている彼の右上腕が
「ばれちゃったね」
 陽の光にきらめいたのを見てしまった。視線と、隠しごとのできない律子の目でわかったのだろう。困ったように微笑みながら反対の手できらめきを覆った。
「三枝さんはさ、魚女池の伝説って知ってる?」
 彼の腕から顔に視線を移すと、目が合った。
「もちろん。この村にいて知らない人なんていないよ」
 小学生のときに授業で習う。住んでいる土地のことを知ろう、という取り組みがあった。しかしそんなものがなくとも誰もが知っている。魚女池があるから魚女神社なのだし、村民はみな氏子である。
「そうだよね。じゃあさ、あの伝説のこと信じてる? 本当だと思う?」
 律子はすぐに答えることができなかった。抱えた教科書が弓なりになる。
「わ、わかん、ない。だってあの池で魚なんて見たことないもん」
 ふたりがまともに会話をしたのは、このときが初めてだった。

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夏に読みたい、澄んだ余韻を響かせる一冊

不思議な夏の物語三篇が収められた短編集。
一話、一話と読み進めるうち、波の音と、鱗のきらめきが脳裏から離れなくなりました。
白銀のカバーと、その奥に隠された表紙も、本書を象徴しているようで美しい。

読了後、だれかの秘密に触れてしまった気分になり、ほんの少しの罪悪感と、透明な余韻に浸っていました。
すてきな一冊でした。

らし

彼岸と此岸のはざまにゆれる

 思春期、というと陳腐かもしれないが、危うい時期である。
 彼岸と此岸のはざまで、容易に《むこう》をのぞき込んでしまう。そして、彼岸と此岸を隔てる鍵は、《水》。
 そんな3編の物語。

「十五のあ」
 両親の田舎に伝わる伝承。
 十五の歳、海で行き逢ってしまうモノ。
 周囲の忠告にもかかわらず、その声に惹かれた主人公の顛末

「弔いのりんご飴」
 不思議な言葉を残して、その存在が消えてしまった友人に思いを馳せる主人公。
 過去と今が、別の人物によって重なり合う。
 消えた友人はほんとうに存在したのか、本当に存在し、消えたとしたらその理由はなんなのか、不思議な重なりは偶然なのか、さまざまなことに思いを馳せつつ、余韻を味わう物語。

「白い魚」
 いにしえの伝承。鱗を持つクラスメイト。主人公の存在とはなんなのか……伝承との符号、伝承とは別の結末。

 どの物語も、登場人物たちは彼岸と此岸の狭間で揺れ、そのお互いの選択を運命と受け止めている。選択の苦悩は水に溶けて流れていく。
 全編、独特の透明感を持った作品集です。

宮田秩早