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販売は2021年7月31日をもって終了しました。
たくさんのご注文をありがとうございました。
  • 日本昔話短編集 星合う夜の夢

    葛野鹿乃子
    600円
    大衆小説

  • 消えた天女の妻を追って天へ昇る男。
    六地蔵を前に回顧する老人。
    秋祭りを前に塞ぎ込む妻を持つ庭師。
    魂をかけて鬼と取引する男。
    朽ちた社の龍女に琵琶を弾く男。
    誰にも見えない黒い犬を見る娘。
    神隠しに遭った幼馴染を捜す少年。
    人間の恋人を幸せにしたいと願った蛇神。

    人と異類の交流をテーマに、出会いの幸福と別れの切なさを描く、和風ファンタジー短編集です。

    ▼「天人女房」「笠地蔵」「大工と鬼六」「七夕」「送り犬」などの日本昔話や伝承8編を作者が好きにアレンジしました。
    ▼巻末に昔話のあらすじも紹介。

    短編集 / A6判 / 200P

試し読み

 ずっと留めてはおけぬ。
 いずれ秘密は知れよう。
 そう思っていた。そう思っていた、はずだった。
 誰もいない家の中を見渡して、若彦(わかひこ)は戸の前で呆然と立ち尽くす。
 ひとの温もりが失せて、しんと冷えた家の中。ひとが生活している様子が消えた気配を瞬時に、そして敏感に感じ取って、若彦は引戸を開けたそのままの姿勢で固まっていた。
 昼時に戻ってきて少し早めの昼飯を家族と食べ、また野良仕事に戻った。だからそれまでは確かに家に人がいた。
 そして日が暮れるまでの間に、家が無人になった。
 土間から続く板張りのひと間があるだけの、どこにでもある簡素な家だ。もちろん人が隠れられる場所はない。妻は隠れて若彦を驚かせ、楽しむような女でもない。息子もまだ小さく、言葉をようやく覚え始めたといった年頃だから、この子も然りである。
 物盗りなどの類でもないことは確実だ。家はきちんと片づいていて荒らされた様子もないし、そもそもこの家には盗るものなど何もない。最初から物盗りでないことは解っている。
 妻は、子を連れて出ていったのだ。
 冷えきった濃密な宵闇が背後から押し寄せてくる。
 明かりのついていない家には、もう誰もいない。
 ようやく若彦の心にその実感が伴って、胸が矢を射かけられたように苦しくなった。
 若彦はたっぷり時間をかけ、ようやく動き始めた。胸を突く痛みのせいで、のろのろとした緩慢な動作で足を踏み出す。目指す場所は――確認する場所はひとつでいい。
 屋根の修理用に使うかけ梯子を柱に立てかけ、上った。天井の板を外して暗闇と埃が立ち込める屋根裏を見渡す。
 目が少しずつ慣れて、一際濃い黒い塊が細長い箱の輪郭を結んだ。屋根裏に隠し置いた桐の箱だ。若彦は這ってそれに近づいた。
 箱は蓋が開けられたままになって中の空洞を晒していた。妻がこの箱を見つけ、中のものを取り出しこの家を出ていったことは確実だろう。
 背中に己の罪が這い上がってくるのを感じる。
 妻から大切なものを奪ったばかりか、若彦は彼女にそれを隠し続け、騙してきた。
 箱に入れていたのは、天女から盗んだ羽衣である。
 妻は人ではなく――、天女だった。

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