TEMPLATE - [PROJECT] TEMPLATE - [PROJECT]

あまぶんウェブショップ

販売は2021年7月31日をもって終了しました。
たくさんのご注文をありがとうございました。
  • 春迎えの魔女

    葛野鹿乃子
    300円
    大衆小説
    ★推薦文を読む

  • 季節のハーブや果物を使ったお茶やお菓子を出し、魔女の喫茶店の看板を掲げるヴィオラ。
    ヴィオラは人の中に居場所を見出すが、あるとき人を憎む魔女と出会い、自分の中の魔女迫害の記憶を思い起こしてしまう。
    魔女は人の中でどう生きていけばいいのか。ヴィオラが見出す答えは……? 
    これは厳しい冬の中で春を迎えるおとぎ話。ほろ苦くもやさしい、読み切りの短編小説です。


    ▼短くてすぐ読めるので、「トナカイの森」の本を最初に読む人にもおすすめです。

    短編小説 / A6判 / 40P

試し読み

 扉に取りつけられたドアベルが、カランと音を立てて開きました。
 ヴィオラが「いらっしゃいませ」と声をかけて顔を向けます。入ってきたのは、若い女性のお客さんです。長旅をしてきたことが一目で知れるほど、くたびれた革のトランクとブーツを身につけていました。暗い色の服も色褪せ、裾がほつれかけています。
 鋏を入れていない長い銀の髪は雪のよう。真っ直ぐ人を見据える視線には、厳しさと気高さが備わって、大空を飛ぶ鷹のように凛々しいものでした。
「この喫茶店は、あなたの?」
 ヴィオラは一目でその女性の正体に思い至りました。
「はい。もしかして、あなたは……」
 ヴィオラが言い終わる前に、女性はほっとしたように笑みを作り頷きます。
「あなたと同じ、魔女よ」
「やっぱり! 他の魔女に会ったのは、本当に久しぶりだわ」
 初めて会ったはずなのに、まるで旧友に再会したような喜びと充足感がヴィオラの胸を満たしました。
「ヒイラギの魔女ヘルミーネよ。初めまして」
「私はスミレの魔女ヴィオラ。会えて本当に嬉しいわ」
 ヘルミーネは不可解そうに眉を寄せました。
「でも、どうしてこんなところで喫茶店なんて開いているの? 何か、無理やり奉仕をさせられているとか、脅されているとか?」
「いいえ、そんなことはないけれど。どうして?」
 ヴィオラには、彼女の言うことが最初理解できませんでした。訪れる人がみんな優しいことは、既にヴィオラの中で当たり前のことになっていたのです。
 ヘルミーネはじれったそうに言いました。
「忘れてしまったの? 私たちがされてきたことを。人にどんな目に遭わされてきたのか。それなのに、どうしてそんなふうに人と関われるの?」
 ヴィオラは魔女として人から受けた仕打ちを思い出し、心が冷たく震えました。
 けれどヴィオラは首を振ります。
「いいえ。魔女への迫害も、人を信じられない世の中も、もう終わりよ。私たちが永遠に人を許せないままでは、魔女の居場所はこの世界にはないわ」
 旧友のような眼差しをヴィオラに向けていたヘルミーネは、火がついたように怒りを視線に込めてヴィオラを睨みました。

推薦文を投稿する

お名前
メールアドレス
推しコピー
推薦文(1000字以内)
セキュリティ文字 「あまぶん」と入力してください

入力完了

優しい魔女の喫茶店、冬に負けない春をみつけて

読み終わって真っ先に思ったのが、ヴィオラの喫茶店に行きたいという気持ちでした。
作中に出てくるどのケーキも、紅茶も、とっても美味しそうなんですもの!
そしてヴィオラは、本当に優しい魔女なのだと思いました。
賑やかで温かみのあふれるお店の描写に惹かれました。

後半描かれているのは、ヴィオラの難しい立ち位置です。
魔女に対する悪いイメージが完全に払拭されていない時代、
それはつまり、
魔女自身にも、悪い人間に迫害された記憶が生々しく残る時代でした。
一歩外に出れば、そこにはまだ冷たい冬があるのです。
接客業なので、外から来た招かれざる客にも対応しないといけないのです。

この物語は、ヴィオラ自身が、春をみつけ出すお話だと思いました。
どこにあったのかは、ぜひ本を読んでいただければと思います。
童話のような優しい語り口のお話に、素敵な読書ができること間違いなしの、オススメの本です!

新島みのる