透き通った鳥のささやきが爽やかに響き渡る晴れた朝、神社の和室の中で娘は目を覚ました。そして布団を畳み、ハンガーに掛けられた真新しい制服のブレザーとスカートに着替えると、襖を開け眩しい日光を浴びた。
「桜は五分咲きくらいかな。もうすぐ満開になってお花見、か。三月も今日で最後。私はここを離れるのね」
横では娘よりやや年下の巫女服の少女が座っていた。巫女は娘に一礼すると、ゆっくりと言葉を噛みしめるように言う。
「はい。佐枝子様は明日から普通の女子高生としての暮らしが始まります」
「名字も変わるのね。あなたと同じ「立崎」に」
「はい。祖母が佐枝子様のご成人の時まで後見を務めさせて頂きます」
佐枝子と呼ばれた娘は、その言葉に答える事無く左肩にリュックを背負うと部屋を出た。巫女は遠ざかる佐枝子の背に向かいずっと頭を下げていた。佐枝子は縁側の角を曲がる前に、振り向かずに巫女に言った。
「涼子。妹を、泉水をお願いね」
佐枝子は言い残すとそのまま去った。その姿が見えなくなっても、涼子と呼ばれた巫女は頭を下げ続けていた。