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あまぶんウェブショップ

販売は2021年7月31日をもって終了しました。
たくさんのご注文をありがとうございました。
  • 死霊術師の菜園

    凪野基
    800円
    エンタメ
    ★推薦文を読む

  • ――いつか、きみに調伏されたい。

    そう嘯く死にたがりの地縛霊ミカエルと、駆け出し死霊術師ユディテの奇妙な同居生活が始まった。
    接触即死、否応なしの清く正しいラブコメディ。
    食べることと生きること、よく生きよく死ぬことに思いを馳せる現代ファンタジー。

    「ノエルの花束」と同じ世界観の物語です。

試し読み

「使わなきゃ。便利に愉快に生きるための死霊術じゃないか」
 死霊の言葉には笑みが浮いている。自分だって死霊のくせに、死者の尊厳を重んじることには考えが至らないらしい。自分が使役されるとは露ほども思っていないのだろう、絶対強者の傲慢に罵詈雑言が百ほども浮かぶが、相手にしてはいけないと、理性のオブラートに包んで飲み下した。
「何が望みなの。ここからの解放? 自由に動くための入れ物?」
「そりゃあそうだけど。でも、叶いっこない。ちょっとだけ、先っちょだけだからってお願いしたら、きみ、囓らせてくれる? そんなわけないだろ」
「そんなわけないね」
 死霊は嘘をつかない。つけないのかつかないのかは定かではないが、死霊の言葉は常に真実だ。だからこそ司法の証拠としても通用する。
 目前の死霊の集合体がどうして明瞭な意識を、自我を持つようになったのか、こんなに高度な会話が可能であるのか、わからないことは山ほどある。そもそも、代々の死霊術師たちが調伏しようと試みなかったはずがない。死霊術師の菜園に死霊が憑くなんて、冗談にもならないではないか。それでもなお存在している、それが答えだった。
 何らかの器に憑依すれば移動も可能になるのかもしれないが、そこいらの死霊がヒトや動物に憑くのとは事情が異なる。肉体の方がこの悪意、毒の強さに耐えかねて損壊するのは目に見えていた。
 そして霧は壊した肉体の分だけ強さを増す。そんな見境のない粉砕機に指を突っ込むほど愚かではない。この死霊は単なる霧ではない、極めてたちの悪い、致死性の毒霧なのだ。
「信じられないかもしれないけど」
 と黒い霧は言った。
 ミスティックを理解しようとしない人間もいるにはいて、発声器官がないのに霊体が喋るなんて馬鹿げているとか、トリックだとか様々に言い立てているが、ミスティックが人間の常識に縛られるはずがない。そもそも自分たちの理解の外にあるものを総称してミスティックと呼ばわっているのに、ナンセンスすぎる。
「ぼくはきみの敵じゃないよ、ユディテ。危害を加えるつもりはない」

たしかに存在するもうひとつの世界のファンタジー

よくできてるなー。

ファンタジーって、現世離れした設定が、うまく読み込めなかったりすることがあるんだけど、この作品はそういうのがぜんぜんない。すんなりと、この世界が「あるもの」として入ってくる。いまここにない、もうひとつの、ちゃんと存在する世界の話だ。

あと、文章の描写が凝ってて、読んでてたのしい。描写といえば純文学の見せどころだろうけれど、これは純文学作家も脱帽ですよ。なのでこれはふだんファンタジーを読むひとだけじゃなくて、いろんなひとに読んでほしい、読んでたのしめる作品だと思う。

人物もすごくいい。ユディナ、生きてるなー。登場人物のひとりひとりが息をしてて、この世界で生活してる。ひとりひとりの感情の行き来を見守るのが楽しくて、ときに心配になったりもする。

たしかに存在する世界のファンタジー。あなたも覗いてみませんか?本をひらくだけで、いける世界があるんだって、教えてくれてるから。

にゃんしー

代々の死霊術師が丹精してきた菜園。そこに埋まっているものは?

 先代の急死によって若くして先代の家を継いだ死霊術師のユディテは、先代の葬儀とそれに続く事務手続きの一段落したある日、庭に死霊がいることに気づく。
 死霊はいまのユディテの知識と力量では調伏できない。
 けれど、死霊本人も、ユディテの家に長く勤めているセバスチャンも、「悪いものではない」という。そして、死霊の存在は、先代も周知の事実だったというが。

 主人公の人生の、ある一年の出来事が、庭にいる死霊のことを中心に綴られています。
 この作品の特徴は、まずなにより、主人公の日々の生活が丹念に綴られているところ。
 交友関係、家のこと、菜園の世話、魔力の不調には整流師にかかり(これがいかにも魔術師らしく趣深いうえにアメリカらしい合理も兼ね備えたシステムと描写なのです!)仕事では美しく優雅で心配性の上司の世話焼きを受け流しつつ、日々の事案に対処する。
 そして主人公をとりまく人びとが、実に多彩。
 種族が違う、というだけではなく、種族が違えばそのありようそのものが違い、その国で生きるのに必要な考え方を共有しつつ、どこか異質である……そういう部分が丹念に描かれている。
 主人公に比べれば少ない描写のなかで、浮かび上がってくるひととなり。

 ひとりひとりの力は小さくて、どれだけ最善を尽くしても、世界はおおきく変わらない。
けれども総ては変わってゆく。
 いまの自分があるのは、過去から現在に受け継がれ、そして未来に続く、ひとりひとりが抱くなにか……


 ひとはひとりで生きてはいない。そんな気持ちを強くする、優しい物語です。

宮田秩早

続編が読みたくなります

偉大なる魔女であり師匠であった母が亡くなり、後を継ぐべく奮闘するユディトのお話。キャラクターがすごく立った小説で、ちょっと群像劇的かな?(私は教授とサクヤが好きです) ギミック(死霊の込められた人形とか)も抱負で楽しい。
ユディトが時々こぼす本音(や愚痴)がすごく可愛くて、共感できます。そうだよね、やってらんないよなーって。
ナギノさんの作品には珍しく、ちょっとゴツゴツした手触りもあって、続きが読みたくなります。あと、こういう言い方をしていいのかなんですが、「ママ味」を感じる小説ですね……。

鳴原あきら