TEMPLATE - [PROJECT] TEMPLATE - [PROJECT]

あまぶんウェブショップ

販売は2021年7月31日をもって終了しました。
たくさんのご注文をありがとうございました。
  • ノエルの花束

    凪野基
    500円
    エンタメ
    ★推薦文を読む

  • 引退した音楽家、ノエル・アイアソンにハウスキーパーとして雇われた魔術師ジリアン。マエストロでも先生でもなく、ただの「ノエル」としてセカンドライフを送るかれの穏やかさに、大学を退学になったジリアンの傷心も癒えてゆく。
    「私はね、歌う花を作りたいんです」
    風来のドーナツ屋さんや失踪した双子のお兄ちゃんも登場して、けれど毎日はゆるやかに、穏やかに続いてゆく。
    ほんの少しだけ人生に疲れた人たちが寄り添って、雪解けの春を待つお話。

    1日1文企画「Novelber」2020年版の参加作です。
    「死霊術師の菜園」と同じ世界観です。(物語は互いに独立しています)

試し読み

第1話 門

 これは運命だ。郵便受けを覗き込んだジリアンは、目を閉じて深呼吸した。
 ――見間違いではない。夢でも、願望が見せた幻でもない。ミントグリーンの封筒が、大学の茶封筒を足蹴にするがごとく、斜めに立っている。
「ソーンネル魔術学院 ジリアン・ハーシバル殿」
 待ち望んだ便りに違いなかった。万年筆だろう、ブルーブラックのインク溜まりがひどく上品に思える。ふだんプリントされた無機質な文字ばかり見ているから、几帳面な書き文字が自分の名を示しているとはにわかには信じられなかった。
 差出人はノエル・アイアソン。一週間前に、どもりながら電話をかけ、履歴書を送った相手だ。スマートフォンの向こうで、かれはこう言った。「十日以内に、採用の方にのみ通知を送ります」
 ジリアンは封筒を胸に抱き、茶封筒を丸めて共用のゴミ箱に突っ込んだ。


 引っ越しの準備はすぐに終わった。学生寮として借り上げられた狭いアパートに持ち込んだ私物は少なかったし、教科書類はすべてリサイクルボックスに投げ込んだ。必要があれば、大型書店を訪ねればよい。
 研究室の面々は、せっかく後期課程に進んだのだから、卒業まで頑張って魔術師の免状を取れば就職先も、と形ばかりのしおらしさを見せたが、ジリアンが大学を去る理由を知らぬ者はない。誰も強く引き留めようとはしなかった。
 社交辞令の見本のような送別会の申し出をやんわりと断り、退学届と学生証、学生用の杖を学生課のカウンターに差し出せば、ジリアンはもう、大学とは何の関わりもないいち個人に過ぎなかった。
 わずかな着替えと貴重品。スマートフォンと充電器。身の回りの品は、スーツケースひとつと斜めがけにしたメッセンジャーバッグにすべて収まった。ブランドもののバッグや洋服も、限定販売のきらきらしいコスメも、車も家も貴金属も持っていない。自分の人生はこのサイズなのだと、二十年と少しの人生を振り返って苦笑する。

推薦文を投稿する

お名前
メールアドレス
推しコピー
推薦文(1000字以内)
セキュリティ文字 「あまぶん」と入力してください

入力完了

愛が書く

引退した音楽家ノエルにハウスキーパーとして雇われた魔術師ジリアン。「ほんの少しだけ人生に疲れた人たちが寄り添って、雪解けの春を待つ物語」とありますが、まさにそんな感じだなあと思います。作品全体に冬ごもりの辛抱強さと温かみが宿っているように感じました。

1日1文企画「Novelber」の30のお題に沿って展開する短編連作形式…とのことですが、そうとはわからないくらいお題がお話にごく自然になじんでいて、30話の連続ドラマという感じで読みました。各話のタイトルがお題なのですが、たぶん知らずに本作を手に取った方はそうとはわからないくらい、パズルのピースのようにしっくりはまっています。
30日間、お題に沿って更新するのってすごく胆力のいることだと思います。ナギノさんは職人だなあと感嘆します。職人と言ってしまうと技巧や器用さばかりに注目してしまいそうになるのですが、そういう巧みさを発揮することができるのは、小説を書くことを愛し、楽しんでいるからだろうなあと思います。
作中に出てくる食事や登場人物のすがたなど、ディテールの書き込みが素敵で、書くことへの愛情深さが伝わってくるというか…。レモングレーズのドーナツをぜひ食べてみたいですし、キャベツに焼き目をつけて作る煮込み料理も作ってみたくなります。細部に楽しみと愛がある小説で、読んでいて幸福な気持ちになりました。

ナギノさんの書く女性の溌剌さが好きなのですが、きっと作者のナギノさんのお人柄だろうなあと思います。ナギノさんの作品には下心やイキりみたいなものが見えなくて、書きたいところ、書くべきところを書く、筆を尽くす誠実さが登場人物にも宿っているように思います。30個のお題、他者から与えられた詩情を乗りこなす前向きさやエネルギー。作中でも出てくる「授かりもの」を受け止める懐の深さが、作品全体を支えているなあと思います。

オカワダアキナ

お題から始まってるのにまとまった職人技

お題使って一つ一つ面白い話になった上で、
最終的にはきちんとまたまったお話になっていて、
お題の使い方とまとめ方が凪野さんの職人芸が光ってるなと思いました

ドーナツの件が好きです

小高まあな