お元気ですか。ばかっぽいけどいつも安否が気になるからこういう書き出しなんです。ちなみにわたしは元気です。
『きみはポラリス』っていう小説を読んだことがありますか。実は、あなたのことを想うときこころのなかで「ポラリス」と呼んでいたのできょうは手紙の中であなたのことをそう呼びます。
最近の手紙では知りたくなかったかもしれないことをたくさん書いてごめんなさい。あなたがどれだけわたしが書いたことを覚えているかわからないからあんまり謝ってなくてそれもごめんなさい。手紙に書くよりも直接言いたかったんですけど、機会がないから今回も手紙に頼ります。
もうすぐでポラリスのことを好きになって2年で、あなたはわたしに対して「俺のことをよく見てくれてる」って言ってくれたけれど、正直ちゃんと見えているのかわたしには自信がないです。好きになったからその分わからないトコロもあると思うし、好きになったせいで見えなくなってしまったものもあると思います。
あなたのことを好きな別のひとのことも知っていますが、わたしは別の誰かがあなたを形容することばを知らないように気をつけて生きてきました。それは、わたしの独占欲が強いとかではなくて、誰かの気持ちがわたしのこころを侵食してこないか不安になるからです。
あと、わたしの気持も正直言って誰にも知られたくないです。わたしがあなたに言うようなことをほかのひとに知られて、別のひとからの口から言われるのが嫌だからです。
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彩香と共にあったあの一年間が人生の星の時間だった。たぶん、これからもあの一年間を焼き増して余生を送るだろう。
僕に殺されたい彩香と僕を殺したくない彩香との間で、クーラーの焼け壊れた二階の部屋で、蓮華の爛れる日々が過ぎていった。あの一日一日が逃げ水のように視界の隅をちらつく。
彩香は「君は天使を見つけるべきだ」と言った。僕は「彩香が天使だったら」という仮説を唱えた。彩香は「僕は悪魔だから」と嘲った。
彩香がたとえ悪魔であったとしても、折りたたみ傘を開けない悪魔なんて怖くないよ。
僕を困らせることはどうか気にしないで欲しい。
僕はただ彩香に困らされたいだけなんだ。
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