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  • 順列からの解放

    ひざのうらはやお
    500円
    大衆小説
    ★推薦文を読む

  • ひざのうらはやおの第四短編集。煤けた雰囲気漂う世界で遊女と日雇いの工夫との悲恋を描いた「夜更けに咲く灰色の花」、不良女子高生と不良社会人の出会いと別れと描く「春なのに工事中」ほか、文字通り「順列からの解放」を描いた表題作含め5編を収録。

試し読み

「春なのに工事中」より抜粋

 公園の中には、緑色の塗料が剥げて中の板がむき出しになり、それも茶色に焦げながら水を吸って割れている今にも朽ちて折れそうなシーソーや、幼稚園児がようやく相撲をとれる程度の大きさの砂場、そして二つ仲良く並んで赤錆に覆われているブランコが無造作に置きっぱなしになっていて、奥にはトラロープでぐるぐる巻きにされた回転木馬が、「工事中」という張り紙に封印されていた。空き地があるから仕方なく公園を造ったという自治体の不器用な優しさと、その税金を僕みたいなどうしようもない若者に費やすつもりはないという毅然とした態度を体現するような、期せずして存在する現代芸術がこんなところに、いや、きっと日本の至る所にあるに違いない。行政は年金暮らしの老人の機嫌をとることに精一杯になっていて、僕のような生きる気もなければ働こうともしない、まして子供を作る予定すらなく、しかも生まれ落ちてからたかだか二十数年の人間の面倒なんて見ていられないのだろう。毎月あくせく税金を納めた結果がこれなのだから、テレビの向こうの政治家が不倫をしようが三億の賄賂を受け取ろうが勝手だと思われても仕方がないし、彼らだって票にならないことは仕事ではないので僕らに目を向けることもない。かくして日本は団塊の世代ばかりが儲かって、彼らと一蓮托生となって死んでいくのだ。どうしようもない虚無感に僕は思わず鞄に隠し持っていた煙草を探した。

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意欲的な「表現模索」の足跡をうかがわせる作品集。そしてもうひとつ……

作者の意欲的な「表現模索」の足跡をうかがわせる作品集。
そして、全編を通して主題が共通している。その主題の統一によって作品集にある種の統一感が醸されている。

「夜更けに咲く灰色の花」
別作品集「煤煙」に改稿版が掲載されている。
歓楽の街で出会った男と女。その道行きの物語。
「煤煙」では、浦安という地名を与えられたファンタジーになっているが、元版では地名を与えられてはいない。その印象の差を味わう楽しみ方もできる。

「ナイフエッジ・タンジェントセオリー(フリースタイルエディション)」
なにかが起こる予感をはらみつつ、膨れ上がってゆく物語。意味ありげな薬を主人公に投与する女理事長。
夢の仕掛け人はだれなのか、主人公の能力とは? 全体像のはっきりしない「学園」の手触り……

「空葬の森」
死に絶えた村、死者を埋葬する娘。いったい破滅の原因はなんだったのか。因果の絡み合った末の密やかな「死」。ラストシーンの静謐さが印象的。

「表現模索」については、表題作の「順列からの解放」に顕著。
「ある規範」へ押し込めようとする圧力に抵抗し、その運動がまた別の圧力をうむ原因となってゆき……という社会の一側面を、数学的表現を使って語っている。
たとえば実際に当事者も存在する現実にある問題をそのまま表現に落とし込めば、短編であればあるほど細部が捨象されすぎて逆に本質が見えにくくなり、大枠としての「問題点」が捉えにくくなるものだが、それを回避しつつ躍動感に満ちた作品になっている。
そして、本作のおおきな特徴は、性別すら捨象されている登場人物の中で、ひとりだけ、「彼女」という人称代名詞を与えられている人物がいる事実である。

「春なのに工事中」
 登場人物はふたり、主人公と女子高生。
 それぞれに「社会の枠」から飛び出したものの、両者ともに「自由」ではない。「自由」とはなんなのか、そもそもそれは存在するのかを問うているかのような作品。

この短編集に共通する主題。それはファム・ファタールの物語だということである。
この共通主題に気がついたとき、私は本作の作品世界の解像度が一気に上がったのだが……
私の読みに妥当性があるか、それは是非、皆さんも各自味わってみて欲しい。

宮田秩早