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あまぶんウェブショップ

販売は2021年7月31日をもって終了しました。
たくさんのご注文をありがとうございました。
  • 幻石(新装版)

    ひざのうらはやお
    500円
    大衆小説

  • 「現石」刊行に伴い、前作にしてひざのうらはやおのヒット作でもある「幻石」が装いを新たに堂々復刻!
    存在しない4つの鉱石についての短編集。4つの物語が彩り豊かに収められています。

試し読み

「まだらな二人」より抜粋

「お前、俺の芸おもろいと思ったことないやろ?」
 開口一番、トンガリさんはそう言った。詰問する形ではなく、柔らかな笑みを浮かべているのが逆に気味が悪かった。
 俺が戸惑っていると、トンガリさんはからからと笑った。
「いや、わかってんねん。お前は俺の芸ごときで満足するような奴ちゃうし、自分の笑いもっとるやん。中身のない誉め言葉でケツ持ちしてくる奴より、なんも言わんお前の目のほうが俺は励みになったし――正直、ずっと怖かったんや」
「トンガリさん」
「小島。俺の言葉なんかと思わず、頼むから今から話すことよう聞いてくれんか?」
 彼の瞳にはバーの間接照明が写っている。しかし、清水の前にいたときに見せていた柔らかい幸せそうな表情はすでになく、芸をやる前によくする張りつめた表情へと変わっていた。
「俺な、お前見てて思うねん、今ちょうど分かれ道やって」
「分かれ道」
「おう。芸人として生き残るか、あきらめてカタギの道をいくかの分かれ道や」
「なんすかそれ」
 思えば、清水を除けば、芸人仲間で一番話をしているのはトンガリさんかもしれなかった。他の先輩も後輩も、別の芸人の悪口ばかりで、当然俺がいないところでは俺の悪口も言ってることがバレバレで、飲みに行くのがめんどくさくなってきて最近はほとんど行ってなかった。でも、この人は絶望的に面白くない代わりに、他の芸人の悪口をほとんど言わなかった。だからそれなりで扱われているのだと今気づいた。