この本を手にすると、まず表紙にうっすらと浮かぶ注射器のモチーフが目に入る。
毒を治療するための薬だろうか。
そう思いながら読み始めると、本文では、明確な『毒』も『薬』も出てこないことに気がつく。
この本で描かれているのは、主に、『校則』や『社会』といった枠組みの中で息苦しさを感じている人々の日常だ。
『やさしくきく毒』というタイトルとは裏腹に、『毒』とは学校や社会から与えられる外圧のことではないかという印象さえ受ける。
だが、何が『毒』であるかを、この本が明示することはない。
ただ淡々と、生きづらさを感じる人々の日々を描くだけだ。
何が毒で、何が薬か。
それは見る人次第ということなのだろう。
しかし、どうしても印象に残る一首が、私の頭から離れない。
<ゆうぐれに電話に出るとせせらぎが聞こえ、ありがと、さよなら、切れる>
電話を取った人物、そして電話の向こうの人物にとって、この会話は毒だったのだろうか、それとも薬だったのだろうか。
こうげつしずり