収録作「今一番食べたいもの」より
ずっとこうしたかった。私は。君を。
邪魔者はない。
冷たくかたい、濡れた躰が、無防備に横たわっている。
目の覚めるような朱が、視界の中、ぼやりと滲む。
その白く、たおやかな腕を、
関節から引き千切り、
滴るエキタイを、舐めればほのかに甘く。
筋にくを、そっと口に含めば、
待ち望んだ瞬間。
舌で愛で。歯で噛み締め。
もっと。もっとと。餓鬼の心地で、
ぱきり、ぱきり、君を手折る。
メインディッシュは愛らしい君の頭の中身。
なにを思い。なにを愛し。
こんなにもとろりと、美味しく仕上がったの。
灰色のグズグズを掬いあげ、その官能的な滋味に舌鼓を。
ああ。だいすき。
満足感に浸りつつ、私は箸を置いた。
うむ。
大変良い蟹だ。褒めてつかわす。