夜は眠りに近く、眠りは目覚めによって中断するものの、死に近似している。
死の対偶は生であり、生は性に内包されている。
本作に色濃く感じられるのは、しんと静まりかえった室内に、あるいは冷ややかな夜気を纏う路上に蟠る死の気配と、闇の孕む濃密な性の薫り。
性は本来、生に近しくあるはずが、本作においてはどこか死に寄り添うものとして立ち現れるのはなぜだろうか。
食事の描写がほとんどないのが印象的。ししゃもは棄てられ、たまごも玉葱も腐ってしまい、かりんとう饅頭でようやく空腹を思い出す。
死に足を浸し、性に未来を求めず、生に執着しない……そのように読めるにもかかわらず、ただひとかけら、違う味わいが全編に隠されている。
私はそれを、生命力だと感じた。
どのようにあっても失われない、命。
夜に包まれた黒い泉に咲く不可視の花。
濃密な泥濘と、凜として涼しい花の匂いのする詩集。
宮田秩早