あり得たかもしれない可能性が、心と頭の扉をピンポンダ ッシュして嘲笑い声を立てながら駆けていく。行き場のない 小さな苛立ちだけがその場に残る。
幸せになるためにはどうすればいいかを考えることは、今 と現実に自分を留めておく錨だ。過去を追い風にして未来へ 身体を運ぶ帆だ。そうだろう。どうだろうか。それにしても 眠いね。
たとえば僕は灯台守になりたかった。道路標識としての灯 台を維持・管理する業務に勤めながら、海岸沿いで静かな生 活をしたかった。水平線を眺めながら、一寸読んでいた文庫 本は机に伏せて、丁寧に淹れた紅茶を口にしていたかった。
孤独と表裏一体の幸福を、幸福と表裏一体の孤独を噛み締 めて、ずっと記憶の中にいる幻のきみのことだけを考えてい たかった。 日本の有人灯台は2006年に全て無くなった。灯台守という仕 事はもう日本には存在しない。
(aoiehizahsi)