一時間後、実験都市の上空へ回ると、エディプスの予報した通り、恒星光を遮る雲もなく、地上への視界は頗る良好になっていた。
都市上空を覆うインヴィジブルドーム――と言っても不可視なのは都市内部から見た時だけであり、恒星の光を受ける上空からだと半透明の銀色に輝いて見える――は、艦艇が宙港に近付くと一時的に開放状態になった。指定されたポートに艦艇を降下させ、着陸が完了したところで、再び閉ざされる。
紀博と理沙が外に出ると、自動運転と明らかにわかる二人《ににん》乗りのオープンカーが、しゅるしゅると低速で寄ってきて、ふしゅん、と路面に下りた。
『御案内シマス。御乗車クダサイ』
先程とは異なる、女性めいた機械合成音声で喋り掛けられる。勧めに従ってふたりが乗り込んだオーブンカーは、しゅん、と音立てて路面から浮き上がり、滑るように宙港を出た。
「……二年間も無人だった割に、余り荒れてないんだな」
広々とした街路を快調に走る車内から辺りを見回し、紀博は呟いた。
「整備ロボットがきちんと稼働してるみたい。ほら、あそこにも」
理沙が指差す方向を見遣った紀博の目に、人の背丈の二倍はある大型の清掃用ロボットの働いている姿が映る。
「本当だ。……何だか物悲しいな、誰も居なくなった街なのに」
放棄されてから二年間、取り残されたシステム“エディプス”は、こうやって街を美しく維持し続けていたのだろうか。抗サイオニック装置の“研究開発を続行していた”というのは、エディプスにとっては数多《あまた》ある“任務”のほんの一側面に過ぎず、システムを組んだ技術者達から与えられたそれらの?任務?を淡々と熟し続けてきただけなのかもしれない……
などと思っていた目の前で突然、ドン、という激しい炸裂音と共に路面がめくれ上がった。異常の自動検知で急ブレーキの掛かったオープンカーが、殆ど反転する勢いで回転して停まる。
『えまーじぇんしー!! えまーじぇんしー!!』
緊急事態を叫び立てるオープンカーから飛び降りた紀博は、路面破壊の原因になった太いエネルギー弾の出所に素早く目を走らせた。――清掃用ロボットが、何か筒状の物をこちらに向けて構えている。まさか、清掃用ではなく軍事用だったのか!?
『しすてむヨリ入電、清掃用ろぼっと暴走、三台ガしすてむ制御カラ外レテ暴走中、警戒シテクダサイ!!』
―――「第四章 此処は実験都市」より