出店者名 にゃんしー
タイトル いつかの水晶山
著者 にゃんしー
価格 600円
ジャンル 詩歌
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紹介文
山口県防府市で過ごした子ども時代、京都市の大学に進学し、就職して尼崎に引っ越したあと「うたって、おどって、へんなかお」なパフォーマンスをしてきた。

むらたくんのこと、なかむらくんのこと、きのしたくんのこと、しまくんのこと、かとうくんのこと。

「空は青くなかった」あの町のこと。

『キャンディと王様』以来、白昼社×にゃんしーが実現したのは、
ノスタルジスタ溢れるエッセイ集。写真も多く収録。お楽しみください。

「雨が降ったあとは、崖が滑りやすくなっちょるけえ気いつけえ」

K君がそういう。

K君だったかな、もう名前も忘れてしまったな。
それはすごく昔のことなんだ。

K君に先導されて、水晶山に登った。

水晶山は、昔鉱山か何かだったとかで
とにかく水晶が取れる。
仲間内では有名だったけれど、
実際にどこにあるのか知ってるひとは
ほとんど居なかった。

数名と、ごくごく限られたその友達だけが
その水晶山に入ることができた。
水晶山に入れることは、ちょっとしたステータスだった。

高い山の上からは、まず高速道路が見える。
その向こうには、僕らの町があって、
遠浅の海岸をなぞるように海が広がっている。

ごおごおというトラックが走る音を抜けて、
気持ちのよい潮風が鼻をかすめていった。

「ダメじゃ。死んじょる」

K君がそういう。

水晶は本来、透明なものだけれど、
この山で見つかる水晶は大抵、
白い繊維のようなものが中に走っていて
あまり綺麗ではない。
そういった水晶のことを、K君は「死んでる」と表現した。