「雨が降ったあとは、崖が滑りやすくなっちょるけえ気いつけえ」
K君がそういう。
K君だったかな、もう名前も忘れてしまったな。 それはすごく昔のことなんだ。
K君に先導されて、水晶山に登った。
水晶山は、昔鉱山か何かだったとかで とにかく水晶が取れる。 仲間内では有名だったけれど、 実際にどこにあるのか知ってるひとは ほとんど居なかった。
数名と、ごくごく限られたその友達だけが その水晶山に入ることができた。 水晶山に入れることは、ちょっとしたステータスだった。
高い山の上からは、まず高速道路が見える。 その向こうには、僕らの町があって、 遠浅の海岸をなぞるように海が広がっている。
ごおごおというトラックが走る音を抜けて、 気持ちのよい潮風が鼻をかすめていった。
「ダメじゃ。死んじょる」
K君がそういう。
水晶は本来、透明なものだけれど、 この山で見つかる水晶は大抵、 白い繊維のようなものが中に走っていて あまり綺麗ではない。 そういった水晶のことを、K君は「死んでる」と表現した。
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