「それがあたりまえだったとはいえ、苦しいくらいしてきた努力に見向きもされずに、生まれもったものだけで評価されるのは、辛かっただろうな」 「努力だと、思ったこともなかったんです。たぶん。だけど、どれだけ一生懸命吹いても、俺の音に価値がないのは変わらないんだって気付いたら、どうしようもなくなっちゃって。――本気になるだけじゃ、どうしようもないことあるんだって一度思っちゃったら、もうダメでした」 優都が噛みしめるように潮にかけた言葉に、声が震えた。ずっと、だれかに認めてほしかったことだった。努力をするのは当然で、そもそも評価されるようなことではなくて、価値を与えられるのはいつだってそのもっとずっと先のことだった。だというのに、最初からその世界で生きていくことは許されていなかった。それでも音楽を手放して生きていく方法を知らなかったのだ。それがこの十二年間と半年、潮の内側にあったあらゆるものだった。 「結果を求めなくていいとは言わない。上手くなるための努力はしてほしい。だけど、結果が出ないだとか、それが特別じゃないだとかいう理由で、おまえの努力を見捨てるようなことは絶対にしない」 きっぱりとそう言い切った優都は、また俯いてしまった後輩の横で、「潮」とその名前を呼ぶ。ゆっくりと顔をあげた潮をまっすぐ見据え、優都はいつもの柔らかな笑みを浮かべて口を開いた。 「おまえの努力は、僕が後悔させない」 その言葉がすべてだった。ずっと欲しかったけれど声に出して求めることの許されていなかった感情が、そこにはすべて込められていた。耐えることもできずに泣きだした潮が再び落ち着くまで、優都はそれからさきなにも言わずに隣に座っていた。
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