|
|||||||||||||||||
田中建築士と飲んだ。 |
| ||
衝撃的なお話でした。 流れてくるメロディーに不協和音が混じりだすような、 噛み合わなくなった歯車に、亀裂が走るような。 これは危ない、と気づいたときには、もう後戻りはできない。 最後まで目が離せない展開でした! このお話には、五人の登場人物がでてきます。 (登場人物の個性の強さが、このお話の面白さといっても過言ではないでしょう) 作中では何度も、家とはなにか? が問われます。 五人それぞれに、家の概念を打ち出していきます。 けれど途中から、六つ目の家のことを考えていました。私個人にとっての家とは、ということ。 六つ目は完全に本の外の話です。直接本に書かれてあるわけではありません。 作中にさりげなく、『尼崎』と『同人誌』という言葉があるのを(別々のシーンで)見つけたもので、それで、思いを巡らせていました。 限られた期間でも、心ゆくまで本の世界を楽しめる、表現できる、居心地の良いスペースを提供してくれたのは、あまぶんでした。 六つ目の家、本当の答えを探すために、イベントに参加してみるというのも面白いんじゃないか、と個人的に思っていました(個人的にね!)。 話が脱線してしまいましたね、『田中建築士の家』の感想に戻ります。 最後まで読むと、どうしてああいう出だしだったのか、そして青と白のシンプルな表紙の意味がわかると思います。 ラストシーンは、まさに複数の解釈ができるもので、非常によく考えこまれたストーリーでした。大人の文学です。 そこに家があったとしても、家であり続ける保証はどこにもない。 それでも、人々は家に集まる。家が壊れたって、また違う家を建てて、集まる。 集まるからこそ、始まる人間関係がある。 真実を知ったから、近づけることもあれば、永遠に修復できない亀裂が入ることもある。 光だけでなく、闇も描かれてあるからこそ、現実味があって、深く味わえる作品でした。 | ||
推薦者 | 新島みのる |
| ||
異世界へ潜り込んで何かを得て失って知る話かもしれません。主人公さくらは選択した不可抗力で汐音に流れます。目的地・田中建築事務所で出会う面々も訳あり。それぞれにハイスペックな人間が落ちてきたように見えます。それは失敗だったのか。負けなのか。じゃあ勝ちってなんだ。そう問われる作品、というよりはそれを疑っていい作品でした。やさしい。一回負けても終わりじゃないと言われた気がします。説得力を伴って。 概ね成長物語だと思います。臨場感が溢れていて、居場所や役割を見つけ充実していく展開には我が事のように高揚しました。物事が暴かれていくのにゾクゾクし、最悪の事態には一緒になってアップアップしました。 物事出来事の一つ一つは白とも黒とも決められないグレーの濃淡で、大小の社会(1人対1人だったり家族だったり会社だったり)のうねりが世界を揉み動かしていく。読後、現実に起きたある事件を想起するかと思います。モチーフに過ぎないので実際どうだったのかは別の問題として、良し悪しの決められない小さな無数の出来事はむしろ夢と志と善意の賜物で在る。無数のボタンを夢中で合わせていくうちに少しずつ掛け違えて攣れて大きな力がかかり、合わせたボタンがバラバラっと全部落ちてしまうことは少なくない。 で、失敗だったのか。負けだったのか。じゃあ、勝ちってなんだ。価値ってなんだ。あなたにとって、○って何ですか? そしてそこで何を見るか。 数々の問題提起がある。答えを探しに行く余地がある。これは愛です。成長物語と書きましたが進歩も後退も停滞もそれぞれに成長でしょう。さくらは汐音に来て初めての変化を得ます。でもやっぱりさくらはさくらだと思うのです。人は変われるし、変わらなくてもそれでもいい。ダメでもいい。大らかなヒカリを感じます。時に眩しさは痛みとなりますが。 文脈に落とし込まれた、宇宙と世界と社会(家)の在り方や表現が好きです。いろんな光が見えます。それぞれの光の表現が素敵です。 大小のどんでん返しも見事というか、やられた! と思いました。 汐音の人はいびつな社会から弾かれて逃げ延びてきたかもしれません。でも逃げたらいいと思いました。落ち延びてもそこで生き延びればいいと思いました。元の社会をくそくらえだと思いました。 私にとって、この本は愛であり、優しさです。 ただし寝不足にお気をつけて。 | ||
推薦者 | 正岡紗季 |