出店者名 雫星
タイトル 星と幻夜のセレナーデ
著者 神奈崎 アスカ
価格 500円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
少女は星を探している。願いの叶う星を、探している。
これは、『願いが叶う星』を探す少女フィスチェ(年単位で旅をしているのにへっぴり腰が抜けきらない)と、相棒のぬいぐるみシオン(ぬいぐるみのくせに声は渋いし性格は悪い)の、世界と世界を転々と渡り歩く旅路の断片集。

【さいはて、まほろば、人魚は乞うた より】

 少女は旅をしている。同行しているのは喋るぬいぐるみ一匹、有事の際対処せねばならぬのはフィスチェのみ。故に、ぬいぐるみに付け焼き刃と言われているものの、武芸の心得は身につけていた。槍だ。その槍が、両手で握っていたそれが、ない。
 体を起こしたおかげで広くなった視界で、フィスチェは大きく左右に首を振り周囲を見渡した。目印のような形で金の布を柄に巻き付けているそれは、思ったよりも早く見つかった。目の前に、それは突き刺さる形であった。但し、立って歩かねば届かぬ距離の向こう側、何かの横に。
 星明かりによって照らされた姿が何か、フィスチェは知っていた。上半身は女人、腰から下は鱗輝くヒレ、それは人魚と呼ばれる種族であった。
 左の隻眼を丸くさせているフィスチェに気付いたのか、人魚はこちらを窺うように視線を投げかけてきた。清らかな水色の目が星のように瞬く。
「これ、あなたの?」
 これ、が何か分かったものの、人魚がそれを見ないせいと、フィスチェ自身の疲労によって、首肯はやや間を開けてから行われた。人魚はそう、とだけ答えて、鱗と水掻きに覆われた指をフィスチェに向ける。
「お礼、欲しい」
「あ、えと……はい?」
 片言の要求に、フィスチェは思わず首を捻った。きっと人魚はフィスチェを助けた存在であり、見返りに何か欲しいと言っているのだろう。しかし、あまりにも唐突に言葉を投げかけられたため、しっかりと言葉を飲み込むのに時間を要してしまった。
 今までの旅路で、多種多様摩訶不思議な種族との交流を重ねてきたし、人魚そのものを見た経験もある。が、人魚という存在と言葉を交わすのは初めてだ。なので、フィスチェは全く思い付かなかった。人魚が欲しがるようなものを。
「その、何か欲しいもの……あり、ます?」
 恐る恐る、伺う。
 沈黙だけが、両者の間を行き交う。全身の熱を奪い続ける水の冷たさに意識が飛びそうになるが、フィスチェはそれを必死に抑え付けることで意識を保っていた。
「あ」
 人魚の口が、ぱくりと動く。
 さらさらと流れる水音ばかりが響き、通り過ぎる。
「特になかった」
「……特に?」
「そう。欲しいもの、特にない。川、海、探せば、ある」
 フィスチェの脳裏が一瞬白くなった。お礼を求めるが欲しいものがない相手に、一体何をどうすれば。


確かなものはどこに
世界をわたる旅をする少女フィスチェと相棒のぬいぐるみ・シオン。彼女が旅する世界は色鮮やかで美しく、けれどどこか儚く脆く、フィスチェが旅立つと世界ごと消えてなくなりそうな印象を受けました。

フィスチェやシオンだけでなく他の登場人物たちにも曰くがありそうですし、探し物は本当に見つかるのか、とどきどき。装丁が!トワイライトPPがすごく素敵。ゆめまぼろし、って感じで絶妙でした。
推薦者凪野基