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花崎は、一昨年の春に教員として採用された地方公務員の一人だ。大学で教育学を学び、安定した道だと思い採用試験を受けたところ、たまたま通ってしまった。教師という職業は世間的に見てもイメージは良いような気がしたし、地方公務員で安定した収入もあるということで意気揚々と就職を決めた。それがそもそもの間違いであったわけだが。 |
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さて、豚である。 豚は非常に知能が高い動物として知られている。 鏡像を理解できる数少ない動物であり、 犬を凌ぐ、チンパンジーに比肩するほどの知能を持っているとの一説もある。 知能を根拠にしてイルカを食べることに忌避を示す人々を否定するわけではないけれども、 私たちが食用にしている豚だってそうだ。 屠畜されるときに、気持ちがあるのだ。 チンパンジーは人間でいえば3~4歳くらいの知能を持っているとされている。 チンパンジーと豚が同レベルの知能を持っているという説を採用するとして、 たとえば豚を食べるという行為は、人間でいえば3~4歳の――。 いや、豚が人間なのではなく、人間が豚なのかもしれない。 私たちは、みな、等しく。 「THE CULT」は、カルト宗教を描いた小説だ。 登場人物として、アルコール依存により不祥事を起こす教師の花崎、 世情に興味を持たないフリーライターの三江、 定年後に妻を二度失った米田、 ある贖罪すべき過去を抱えたホームレスの油井……と、 カルト宗教に孤独を埋められるにふさわしい面々が教祖・幸田の下に集まる。 そのカルト宗教で崇められるものは、“少女”だった。 殆どしきたりや儀式らしいものやお布施すらもないその宗教のなかで、 たったひとつ信者に課せられた禁忌は「少女に恋をしてはならない」というものだった。 崇拝や信仰は相手に虐げられることに快感を感じる。 しかし恋慕は違う。恋慕は、相手を征服することに快感を覚えるから。 それこそが、そのカルト宗教の、狂気と憎悪と愛情に満ちた設立主旨を説明していた。 エンタメ小説である。 ストーリーが進むにつれて次第にほどかれていく綿密に練られた伏線の妙は、 読者を作中世界へと没入させてくれる。 ただエンタメ小説なら必ずあるはずの着地点がこの小説には存在しない。 最後、男が空を見上げる場面で、この小説は終わる。 だから、このカルト小説は私たちの世界と地続きな気がしてしまう。 それがこのカルト小説の背筋が凍るような怖さだ。 この小説を読み終えた後、私たちは空を見上げてしまう。 まるでそこに誰かがいるように。 逆さ十字を空から見下ろせば、正しい形に見えるように。 少女は私たちを見ている。 決して、恋をしてはいけない。 狂気と憎悪と愛情に満ちた小説だった。 いろんな感情が入り混じる読後感を説明するのは難しい。 ただ一言でいうならば、屠畜される豚の気持ち、だ。 | ||
推薦者 | あまぶん公式推薦文 |