出店者名 サテライト!
タイトル 永遠まで、あと5秒
著者 古月玲
価格 500円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
「永遠」に行きたい。
 
荒廃しきった地球で理想郷を探す女の子や、理想郷横目に船を作る少年たち、
太白寮を去った少年がいたり、新入生がやって来たり、
夢を交換したり
理想郷をめぐる(?)短編集。

 いつかの遠い未来、かもしれない話。

 何度かの大戦で様々に破壊され、資源は枯渇し、宇宙への進出が加速して人口は減少し、地球は荒廃の一途を辿っていた。
 やがて人類の九割以上は地球外に暮らすようになり、地球にいるのは、何らかの事情で地球外に住むことのできない者たちだけになった。
 もはや国も統治機関もなく、食糧も資源も乏しく治安も悪い、生活には向かなくなった地球に残った人々は、小さなコミュニティーで閉じこもったり、あてどなく彷徨ったりしていた。
 希望と呼べるものはないに等しく、信じられる者などいないのが普通。

 そんな地球で囁かれる噂話。
 この星のどこかに、まるで前時代のように人々が穏やかに、平和に暮らしている街がある。
 その名は「エーヴィヒ」。
 永遠を意味する名前の通り、永遠の理想郷なのだと。


   ***


「ねーハルアキ! ほんとにこっちで合ってるのー!?」
 ジャオが少し後ろを歩く青年に声を張り上げる。
「合ってる。長い道中で何度も訊くな」
 ハルアキと呼ばれた青年は、自分の少し前をぷりぷり歩く少女にめんどくさそうに答えた。
 ジャオが苛々するのも無理はない。もう三日も荒野を歩いているのだ。
 未だ、街どころか建物一つ見えてこない。
 この荒野に入ってからこれまで、街の址を二つみかけたが、どちらも人がいないばかりか建物は崩れ、廃墟を通り越して荒野の一部になりつつあった。
 このあたりは、コミュニティもなく放浪する人もほぼいない、殺伐とした荒野が広がっている。


小さな物語に広がる静寂なる宇宙
 理想郷を目指してそこに向かおうとする少女と、理想郷から出てきた青年による物語となっている表題作をはじめとして、ふたつの世界と4本の短編によって構成されているシンプルな短編集。

 肉の味が最もわかるのは刺身にした時だとよく言われる。この作品もそのような、シンプルな世界とシナリオであるからこそ、著者の個性ともいえる文体が静寂に根を下ろし、短編集全体を貫いていると言えるだろう。

 とくに、巻頭に配置されている表題作「永遠まで、あと5秒」は、物語の全容が明かされる後半のカタルシスから終息までの展開がとても静かで、澄み切った真冬の夜空のような清浄感と高純度の幻想(ファンタジー)感が非常に心地のよい読後感をもたらしてくれる。
 その他3作品も、ときにきらきらとした輝きをのぞかせながらも、どこか非生物的な澄んだ空気をあたりに張り巡らせているような文体が美しく、ごく少々の切なさが極上の読後感につながっているのだとぼくは思う。

 すべてが珠玉の作品集。調和と静寂を求めるあなたに。
推薦者ひざのうらはやお