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chapter4 |
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雨の日は退屈だ。 窓の外を見ると灰色の世界にはしっかりと斜線が引かれてあって、 誰と約束したわけでもない外出の予定を、 すとんと切り落とすように自分の中でだけキャンセルする。 湿気がむわっと立ち上る畳敷きの部屋、 冷蔵庫から取り出した麦茶をグラスに注ぎ、 汗をかかせて。 さあ、何をしよう? 本でも読もうかな。 横着にも寝転んだまま、本棚に手を伸ばす。 コハク燈「小夜時雨」は、そんなときに読みたい小説だ。 手持ち無沙汰な雨の日に、寄り添ってくれる一冊だ。 短編集である。 瓜越古真/笹波ことみのふたりが、 それぞれ「二人傘」「傘の中の、僕の世界」/「海の戯れ」「通り雨は珈琲の香り」と、 二篇ずつ雨に関する短編を掲載している。 決して特別なことなど起こらない、 ただしとしとと降り続く雨のように、寂しい物語ばかりだ。 悲恋が多いかもしれない。 そうだ、雨の日に感じる音やリズム、匂い、目に映る色合いは、失恋のそれだ。 「海の戯れ」だけは、雨があまり主張していない。 その代わりに、海が出てくる。 イルカと少女の、やはり悲恋の物語だ。 雨の向こうの世界は、海に繋がっている。 雨の日の、ずっしりと沈み込むような重い湿気は、まるで海の底にいるかのようだ。 いきぐるしいイルカと少女の物語は、最後、 「少女が海にかわる」ことで終結を迎える。 まるで息継ぎのように、ラストシーンのイルカが幸せそうであったのが印象的だった。 イルカは言った。 「悲しかったけど、寂しくはなかった」 そういうふうに、雨の日を愛せたらいい。 少女が海なら、雨もまた少女なのかもしれない。 雨に包まれる時間を、幸せに感じさせてくれる一冊だ。 | ||
推薦者 | あまぶん公式推薦文 |