出店者名 夕凪悠弥
タイトル 神域のあけぼし(試製1巻)
著者 夕凪悠弥
価格 500円
ジャンル ファンタジー
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紹介文
魔法使いが治める国「アルフ・ルドラッド帝国」。魔竜の襲来を受け、人々が救世神の再来を希求したとき、天空から現れたのは――鋼鉄の巨大戦艦だった! 剣と魔法の世界に現れた、航空戦闘母艦「あけぼし」。そこへ一人の少女が生贄として捧げられた時、運命の歯車は大きく動き出す! これは、遠い未来。地球から遙か離れた惑星での、二つの星の出会いと激突の物語。

WEB連載中の同作の同人誌化。序盤をイラスト付きでお試し発行。

 地球から、遠く遠く離れた宇宙の片隅。
 そこに一つの惑星があった。
 地球に似た蒼と、双子の衛星を持った惑星。
 その惑星と、双子の衛星の等距離にある場所。
 重力安定点(ラグランジュポイント)に光の群れが浮かんでいた。

 それは、船。
 端々に障害灯や誘導灯を灯した、宇宙船の群れだ。
 群れの中心に位置するのは、飛び抜けて巨大な一隻。
 船体に“ゆりかご”と刻まれたその船の全長は三十キロメートルを越し、小惑星にも匹敵する巨大さで、慣性に任せて惑星の周囲を回る。
 その、大都市をまるごとその身に抱えたような巨大な一隻を中心として、護衛の戦闘艦、あるいは輸送や作業に従事する艦船が、忙しげにその周囲を航行している。

 その群れから一隻、身を離す影があった。
“ゆりかご”周囲の艦船に比べ二回りほど大きなその船は、ゆったりとした加速で、艦群の中から抜け出していく。
 その姿は、一キロメートル近い全長と同様にまた異様。
 上部には中央にそびえ立つ艦橋を境に、前方には二基の砲塔、後方には航空甲板というキメラ的な出で立ち。
“あけぼし”の名が刻まれたその異形の船は、ゆるやかな加速を続け、どんどんと光の群れから距離を開けていく。
 真っ直ぐにその進路の目指す先には、蒼い惑星が、ただ光を湛えてそこにあった。



 惑星の上、双子の月に照らされた夜。
 光の下に、優美に舞う姿があった。
 それは、少女の姿。
 シャン――
 長く伸ばした銀髪を振りまき、金属を束ねた房を持つ儀杖を振る、少女。
 シャン――シャン――
 月光と僅かな灯火の色に染められた空間で、彼女は舞う。
 それは、神へ捧げるための踊り。
 シャン――
 白いマントをドレスの上に羽織り、少女は確たる足取りで舞台を跳ねる。
 シャン――シャン――
 灯火の茜に自らの影を長く伸ばし、それと戯れるように。
 神々の使いへ歓びをもたらし、その声を得んとして、少女はただ踊りを捧げる。


同じ『人間』であるということ
巫女、ティルヴィシェーナがとにかく可愛かったです。
その素直なところも、素直であるが故の強さも、あやうさも。すべてひっくるめて。

この物語は、大まかに説明するなら、
神話や魔界が支配するファンタジー世界に存在する帝国に、ある日突然、SF(メカ)が突っこんできたというもの。
興味深いのは、メカを動かす者も、帝国で魔法を扱う者も、全員、同じ“人間”であるということだ。
異なる環境で育ち、異なる事情を背負っている。けれど意思疎通のできる、見た目も近い、人間同士。
ファンタジーとSF、本来なら相容れないはずのこの二つの世界が、ぶつかり合ったとき、どんな化学反応が起きるのか。第一巻から読みごたえのある、面白い作品です。
互いの世界観が丁寧に描かれてあって、良かったです。

レーザービームや、AIが活躍するバトルも見物です。
技術力があるがゆえの慢心が危機を招いてしまうところなど、とてもリアリティがあって良かったです。

新天地に足を踏み入れる、その第一歩がどうなるか。
カズキとティルの距離もふくめ、気になるところです。
試製第一巻ではありますが、まとまったエピソードでくくられてあったので、すっきり読みきることができました!
推薦者新島みのる

ふたつの星をかける共生
これはいつかの私たちの物語かもしれない。
地球という星を離れ、新たに生きる星を探して長い旅に出る。
見つけ、降り立った星が、剣と魔法の世界であったら――?
だから私はこれをファンタジーではないものとして読んだ。
男性ならカズキに、女性ならアカリに重ねて読めば、
細かく書き込まれた世界設定は十分なリアリティを与えてくれる。

あなたなら異星の巫女・ティルにどう接し、
どのように答えを導き出すだろうか。
そんなふうに考えてみてもいい。
どうやら簡単な物語ではなさそうだ。
きっと、少し長くなることだろう。
私が読んだのは詩製1巻で、
ようやく星に降り立ったところで物語は始まったばかり。
彼や彼女は、航空母艦あけぼしの人間は、異星の人間とどのように接するのだろうか。
異星の人間が戦う魔族と和解できるのだろうか。
魔龍との再戦はあるのだろうか。

消極的な期待ではあるが、ハッピーエンドにはならないかもしれない。
これは「共生」に一定の解を与える物語だ。
カズキやアカリの視点は侵略者のそれである。
ふたりが「あけぼし」の方針に従順であることも見て窺える。
ひとつ、希望と呼ぶにはあまりにもカタストロフィックな要素を挙げるとするなら、
カズキがおそらく、異星の少女・ティルに恋心を抱いているであろう点だ。
恋愛はしばしば物語における不確定要素となる。
多くの神話がそれによって悲劇と化したように、
もしかするとふたつの星の神話「神域のあけぼし」も、
カズキとティルの関係によっては、同じ終着点を見いだすかもしれない。

ふたりの関係の進展と、登場人物たちの心の行方に注目したい。
ハッピーエンドにはならないかもしれない、と記した。
しかしもし仮にハッピーエンドになるとしたら、きっとそれは、
ふたつの星をまたぐ全ての登場人物に例外なく与えられる祝福だ。
そんな共生がもしあり得るとしたら、物語を越えて希望となる。
推薦者あまぶん公式推薦文