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鬱蒼と陽の光を閉ざす木々の庇が切れ、露を湛え地を這い土を潤す下草も絶えた先、山の頂に向かって、乾いた白い石の道が続いている。葉影の盾を失った山肌に、初夏の陽射しの矢は余すところなく突き刺さり、微風にそよぐ霧の紗が、荒れた土を涼やかに撫でていく。 |
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宗教国家の中枢に据えられた、三組のきょうだいの愛憎が織りなす、和風ファンタジー。 和風ファンタジーという基本フォーマットながら、かれらの物語の舞台となる国は、さながらディストピアSFにも似た平穏と狂気によって動かされており、物語終盤で静かにカタストロフィを迎える。 ファンタジーという、幻想を主体として語られるこのストーリーは、天衣無縫にして明鏡止水の輝きを持つ著者の文体によって、それ自体の寓話性を鮮やかに照らし出し、極めて緩やかに、しかし確実に読者を深い深い絶望の底へと連れていく。舞台となる国が持つ社会が放つ醜悪さと、そこから人々を、そして愛するひとを救い出したいという純粋すぎる思いを抱きながら、彼は淡々と国を、ひいては神をも殺そうと孤独な闘いを繰り広げる。その結末は、みなさんの目で確かめていただきたい。きょうだいたちは、何を愛し、何を選び、そして何を捨てていったのか。それ自体が、この作品が放つ最大のメッセージであるように、ぼくは思う。 また、この作品は著者である咲祈氏の中でもとりわけ氏自身の特徴ある文体とその精緻な世界観の構成、また厳しくも美しい描写など、いわば「咲祈イズム」とでも言うべき独特の世界観が最も強く表れている作品であると、個人的ではあるが追記させていただきたい。 厳しさと冷たさの底に一瞬だけきらりと光る救いを求める人に、本作を薦めたい。 | ||
推薦者 | ひざのうらはやお |