出店者名 モラトリアムシェルタ
タイトル None But Rain
著者 咲祈
価格 500円
ジャンル JUNE
ツイートする
紹介文
おとなになったら、ぼくも誰かを抱くのだろうか。
どんな欲で、抱くのだろう。
承認欲? 支配欲? 嗜虐欲?

――生きる欲?

なまなましい、生きる欲を、性欲に変換して。
こんなふうに、誰かに、欲をぶつけるのだろうか。
ぼくを抱いてきた、数多のおとなたちのように。


* * *
保護者と庇護者、おとなとこども、生と性が交叉する、
乾いた夜に閉ざされた世界で、
雨を望みつづけた、兄弟の物語。

初頒布の新刊です。
* * *
〈web版〉
試し読みにどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883086742
※同人誌版は、web版を加筆修正したものです。

 承認欲も、支配欲も、嗜虐欲も、突き詰めると性愛に行き着くのかもしれない。ぼくには、よくわからない。ぼくがまだこどもだからかもしれない。おとなになれば、体の中に、欲を繋ぐ回路でも生まれるのだろうか。なんにしても、ぼくは、彼らの欲を受け容れる。何度でも、いくらでも。だから彼らはまた、ぼくを求める。彼らの命の期限まで。

 喩えるなら、ぼくらはふたりで一匹の、疑似餌をもつ深海魚だった。光の届かない闇の底を、舞うように泳ぐ。ぼくという疑似餌に群がり、悠弥の牙にかかる獲物たち。今までも、これからも、続いていく、体と命の与奪。ぼくが体をひらく場所が、ぼろ布から上質なシーツに変わっただけ。

――いつまで、つづくの、かな。

 天井を見上げて、ぼくは、ぼんやりと考える。

――おとなになったら……

 そろそろと、ぼくは片手を、脚の硲に進めてみる。
 ぼくの性器は、静かなままだ。

――いつか、抱くほうの仕事も、するのかな。

 今はまだ、抱かれるばかりだけれど。

 おとなになったら、ぼくも誰かを抱くのだろうか。
 どんな欲で、抱くのだろう。
 承認欲? 支配欲? 嗜虐欲?

――生きる欲?

 なまなましい、生きる欲を、性欲に変換して。
 こんなふうに、誰かに、欲をぶつけるのだろうか。
 ぼくを抱いてきた、数多のおとなたちのように。


June、雨しか降らない
「小説は偏愛的であるべきだ」
私が敬愛するある作家に、この言葉をもらったことがある。
「自分が書きたいと思った内容を、これでもかというくらい偏執的に書く。
そのくらいにしたほうが、自分ではない相手には伝わるんじゃないかって」
偏愛的とは何か、それは正しいのか、
そのようにして書かれた小説が、読者にどんな効果をもたらすのか。
もしも答えが知りたいなら、咲祈さんの著作「None But Rain」を読んでほしい。

Juneである。
あまぶんの定義に依るならそれは「異性愛ではないなにか」だ。
この作品を読んでいると、身体が熱くなる。
頭や心よりも先に、身体が焼けつきそうになる。
季節は夏がいい。じっとりとした湿度が汗を滲ませる。
雨が降りそうだと思う。あるいは雨を呼んでいる。
「None but rain」。
正しく訳すなら、「雨しか降らない」になる。
誤訳でもいいから、まるで悠弥と悠希のきょうだいに救いを与えるように、
この作品に適切な訳をつけてあげたい。

六月である。
作品の文脈に沿うなら降るのは「雨ではないなにか」だ。
この作品を読んでいると、身体が熱くなる。
頭や心よりも先に、身体が焼けつきそうになる。
小説は偏愛がいい。書き込まれた描写が涙を滲ませる。
悲しい思う。あるいは悲しみたい。
「None but rain」。
誤訳でもいいから、この作品に適切な訳をつけてあげてほしい。
悠弥と悠希のきょうだいが、もう泣かないで済むように
代わりにあなたが泣いてほしい。
推薦者あまぶん公式推薦文