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夜空を見上げた。 |
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よい小説であるかどうかは、最初の数行を読めばわかると思っている。 ある読者は「タイトルを見ただけでも分かる」と言っていて、さすがにそこまでは自信ないけれど。 とにかく「ペルセウスの旅人」を開いてわずか数行、いきなり世界へと引き込まれた。 最初に得た感覚は、「透明感」だった。 そしてその「透明感」は、ついぞ失われないまま170数ページ先の結末へと至った。 この「透明感」は何処からくるものだろう。 透明な世界ではあるけれど、世界観がそれを与えるのではない。 表現や文体も美しいものではあれど、この透明感を説明するには足りない。 だとすれば、透明感をもたらしたものは作者の持っている「この物語への矜持」ではないか。 作者の筆跡からは、物語への迷いを殆ど感じなかった。 ただ導かれるままに、短編集のような形をした作品たちは物語から物語へと歩みを進めた。 まるで、神様が書いたみたいだと思った。 それを、「神話」と呼ぶのかもしれない。 「ペルセウスの旅人」は、旅の話である。 ローレンとユーサリというふたりの旅人が、 ときにはふたりで、あるいはひとりで、 様々な人々とのちいさな出会いと別れを繰り返す物語だ。 ひとつひとつの物語は短くて、それでもひとつひとつの物語が、 あるいは現れる人物が、しっかりとした役目を持っているのが分かる。 役目を持つということは、生きているということだ。 この作品は旅をきっかけにして、人生を語る。 この作品の印象的なモチーフとして「時計」がある。 規則ただしく回転を止めない時計は、繰り返される短編そのもので、 それはわたしたちの人生とも相似する。 旅をしたくなる小説だ。 何処へもいく宛てなく、強いていえばユーサリのようにちいさな「理由」だけを携えて、 探しものをしたくなる小説だ。 ローレンはユーサリに言った。 「僕を、君が選ぶんだよ」 「いつか必要になる。君が選んだんだということを、君が必要とするときがくるんだ」 本を読むことだって、旅みたいなものだ。 読みたい本を、君が選ぶんだ。 そうであったということが、いつか必要になるかもしれない。 そうして選ばれた本が「ペルセウスの旅人」であったなら、私は嬉しい。 | ||
推薦者 | あまぶん公式推薦文 |