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ペテンブルクでいちばん背の高い建物は、中央広場のそばに立つ、レンガ造りの時計塔だ。 |
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嘘とは何だろうか。 自分を守るため、ときには相手を守るためにつくる、バリアのようなものかもしれない。 『嘘つき』は悪いことかもしれない。 でも、少年のそれはあまりに真剣で、さしせまっていた。 少年は嘘の町で、理想の自分を築き上げたかったのだと思う。 嘘をつかなくとも、誠実に生きていけることを証明したかったように思う。 しかし、その願いは、ある想定外の出来事をきっかけに、ほころびを見せてしまう。 まったく私事の話になるが、私もまた、頭の中に嘘の町がある。 小説を書くにあたり、脳内では常に嘘の人物たち(キャラクター)が演劇を繰り広げている。 だから、主人公ペトレの気持ちが、手に取るようによくわかった。親近感を抱いた。 その驚きも、戸惑いも、切ないくらいの嬉しさも、全て。 ペトレは町にいられなくなった。文字通り、『嘘の町を出ていく』 けれどその足取りは、確かなもので。その眼差しは、しっかりと未来を見据えていて。 終わらない物語は無い。 でも、この本で導かれた終わりは、一読者である私の心をも満たしてくれるものだった。 物語など所詮、作り話で、嘘にすぎないものかもしれない。 そうだとしても、このお話は、嘘を越える物語であるように思う。 | ||
推薦者 | 新島みのる |
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「嘘の町を出ていく」は2017年4月1日に発行された本だ。 4月1日。大抵のひとにとってその日は、嘘をつく日、として認識されるものだと思う。 本作中では、嘘をつくためのルールが母の言葉によって語られている。 つまり「だまされているあいだ楽しいこと」「醒めても<よかった>と思えること」。 それを「よい嘘」と規定するのであれば、創作は全て「よい嘘」であるべきなのかもしれない。 創作物は嘘で、つくりごとだ、けど、本作の冒頭に書かれているように、たしかにここにあるものだ。 つくる人たちは、誰もが心のなかに嘘でつくられた町ペテンブルクを持っている。 そこではいろんな人たちが生活している。 読者は作品を読むことで、その町のなかに混じる。 もしもそのなかで恋をすることができたなら、それ以上の読書体験はないんじゃないか。 本作「嘘の町を出ていく」を読みながら、そんなことを思った。 そして。この作品自身が、そんな読書体験を与えるものなのかもしれない。 短い物語ではあるけども、嘘つきのペトレと踊り子のシアーシャは確かにそこにいて、 生きて、恋をして、読者は必死な姿に惹き付けられる。 ふたりの幸せな結末を願うようになる。 実際の結末がどうであったかは……自分自身の目で確かめてほしい。 でも私は、この物語は「よい嘘」だったと思う。 だまされているあいだ楽しくて、それで、醒めたあと<よかった>と思えた。 読み終わったあとの読者は、どこへ行くのだろう。 それはそのまま、嘘の町を出たあとのペトレと相似する。 物語の続きは、いつだって読者に託されている。 嘘をつこう。読んだあと、君はきっとそういうふうに思う。 飛び切りの嘘を、飛び切り「よい嘘」をついてほしい。 もしかしたら、それはいつか、本当になるかもしれない。 | ||
推薦者 | あまぶん公式推薦文 |