出店者名 なでゆーし
タイトル お題連作短編集2013
著者 N.river
価格 ¥200−
ジャンル 掌編
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紹介文
A5コピー本。WEB改訂再録版。全11話。32P ★コミュニティで出される「お題」を消化しつつ、どこかつながるように書き続ける! アドリブ全開短編集。お好きなタイトルを選んで読むことでもお楽しみいただけますが、順番に読み進めることでまた違った世界が広がる実験小説です。

 感想文のようだった物語を読み終えて、とびうおはひときわ強く尾びれをしならせ水をかいた。
 頭上にぐんと水面は近づき、まさに魚眼とたわんで大きく広がる。向こうにのぞいた空はブルーグレーだ。破いてあけた穴のような白い雲を浮かべると、眩しさに白くはれ上がっていた。その世界は、まるでこことルールが違う。
 それにしても読み終えた物語はつじつまが合い過ぎて、ハナから全てが済んでしまっていたことのようだった。一度、誰かが咀嚼したおう吐物には「味」さえない。
 そうして再びとびうおは、「えい」と尾びれで水を叩いた。そのときナイフのような体は水中を抜け出し、それでも未練がましくしがみつき伝う水滴をとびうおは、ひと思いと振り払う。
 飛沫と砕けて四散する滴が残す忠告は、いつだって意地悪だ。
 だから振り返ってなどやらない。迎え入れて次から次に話しかけてくる風へ、ただ自慢の胸びれを広げた。受け止め、聞き流して推力に変えたなら、ブルーグレーの空と併走する。さなか、蘇った滴の意地悪な忠告はこうだった。
 風の話は費えるものさ。それとも話し相手を変えてしまうかもしれないよ。
 その物語はつじつまが合い過ぎていて、ハナから済んでしまったことのようだった。そう、彼らのおう吐物になど興味はない。


夏休みの最後に大切な友だちとする、不思議な探検のような物語
「SF」ってなんの略だったっけ?
最初にそんなふうに考えた。
「Science Fiction」が正解だ、たしか。
うん、ウィキペディアを調べてもそう出てくる。
誤りだけど「すこしふしぎ」の略だって言ってるひともいた気がする。
あれ、「すごくふしぎ」だったっけ。

 この短編集は「SF」だった。「すごくふしぎ」だった。

 なむあひさんが好きそうな話だな、と思った。
なむあひさんとは誰か。
小説家か、友だちか、
まあ、「すごくふしぎ」を好きな読者のひとりだと思ってくれたらいい。
この話は、なむあひさんとふたりで読みたい話だと思った。

 例えばなむあひさんとふたりで歩いていると、家がある。
真四角な形の部屋がでたらめに何個も連結された、「すごくふしぎ」な家。
僕もなむあひさんも「すごくふしぎ」が好きだから、その家のなかに入る。

 家の部屋には、それぞれいろんな名前がついている。
たとえば、「風」「緑」「休日」「諍・鬼畜」
「時」「サマータイムデート」「星空サロン」「花火」「長い夜」など。
僕となむあひさんは、その部屋たちを探検する。
髪を切ってもらったり、とびうおを観たり、銀行強盗に遭ったりする。
部屋を出ると、また次の部屋へ。
次に向かう部屋はいつも違うのに、でたらめなのに、どうしてだかつながっている。
物語から物語へ。
ずっと変わらないのは、目にする光景がすべて綺麗だってことだ。

 僕はそのなかに、大好きな部屋を見つけた。
「アジサイの森」という部屋。
この家はどこにいても海の匂いがして、それはこの部屋からかぐわっているのだと分かった。
部屋中がみずみずしいアジサイに満ちていて、その向こうには青い空が見える。
なんだか、海がさかさまにぶらさがっているようだと思った。
そこから落ちてくる滴からは、雨の匂いがしない。
ただ、「かわいそう」という声がした。

 その言葉を最後に、「出発」という部屋からこの家を出る。
僕となむあひさんは、感想を言い合う。
「わからなかったね」と、恥ずかしそうに言う。
そのくらいが「すごくふしぎ」な家の感想としてはちょうどいい。

 そんな、夏休みのちいさな探検のような物語集だった。
ひとつひとつの物語を読んで、つなげて、ふしぎな感覚を味わうのにわくわくした。
あまぶんは、8月27日。
夏休みの最後、やり残した宿題を終えるように、この物語を読んでほしい。
それから、夏の最後の空を見上げてほしい。
空はどこまでも繋がっている。
あなたのいる場所にも、物語の世界にも。
推薦者あまぶん公式推薦文