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あまぶんウェブショップ

販売は2021年7月31日をもって終了しました。
たくさんのご注文をありがとうございました。
  • わたしとあなたのあわいのことのは

    藍間真珠
    300円
    エンタメ
    ★推薦文を読む

  • ディストピア風近未来世界を舞台に、少女達の関係性を描いた短編集。
    どんな世界でも、祈りや願いは変わらない。
    「変わり者のあなたと諦めの悪い私」
    「心ばかりの悪だくみ」
    「雪が溶けたら」
    「イマジネイション憧憬」
    の4編を掲載。

試し読み

 私はサリーに興味がある。
 澄ました顔で電子黒板を見つめるサリーの横顔は凜としていて好きだ。頬に落ちる短い髪を耳にかける仕草も、時折ひかえめに目配せしてくるところも、鉛筆を指の上でくるくると回す癖も気に入っている。
 サリーはいつもシンプルな恰好をしている。今日も白いシャツにキャメル色のロングスカートという、こざっぱりとした服だった。首元で光る小さな緑の石が、ささやかなアクセントになっている。それになんといっても、時々光を反射して煌めく銀の鎖が、繊細で品があって美しい。あのペンダント、他の子は絶対に選ばない。
 どうしてこんなに綺麗なんだろう。モデルみたいに特別顔立ちが整っているわけじゃあないけれど、汚い言葉も使わないし、余計なことも言わない。サリーはとても秀麗な人間だ。
「こはな、何?」
 すると、サリーがゆっくり振り返った。また見つめているのがばれちゃったみたい。
 私はふるふると首を横に振った。今日は両サイドで結わえているから、亜麻色の髪がふわふわと揺れるのが目に入る。この色が気に入っているからついこうしちゃう。髪の動きは何故か自動反応も豊富なんだ。
「別に、何でもない」
「何でもあるでしょう? こはなったら、さっきからずっとこっちばかり見て」
 苦笑するサリーの白い指が、今日も艶やかな黒い髪を耳にかけた。ああ、なんて美しいんだろう。ついつい見惚れてしまう。このアバターの扱いに慣れてきた今でも、私にはあんな風に流れるような動きはできない。投影装置を使ったってきっと無理だ。
「あ、ばれた?」
「そりゃあ、こはなったらわかりやすいもの。授業中だってちらちら見てたでしょう? 先生は気づかなかったみたいだから、助かったわね」
 どうやら心配していてくれたらしい。サリーはかすかに苦笑した。そんな表情も自然だ。
 でも先生は気づかないはずだと私はわかっていた。だから堂々と見てたってこと、サリーは知らないらしい。あの先生は授業中はカメラを使っていないから、こちらの様子はわからないんだ。たぶんあの先生のドームの回線が弱いせいだろう。私はそう踏んでいる。
「大丈夫大丈夫。私、成績はいいから」
「……そうね、こはなは頭いいもんね」
「頭はよくないよ。成績とは別」
 ため息をつくサリーに向かって、私はきっちり訂正した。サリーのそんなちょっとした仕草だってこの心をときめかせるんだから、どうにもならない。

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あなたとわたしの口で溶けそうな、でも、忘れる事の出来ない感情の詰め合わせ

女の子と女の子のかわいくやわらかく、どこかちょっとだけビターな関係性を、近未来SFの舞台で描いた掌編集。
名前の付けがたい関係性の心の動きを、読者への余白を残して描いている作風は、貴重な読書体験ができると思います。

「変わり者のあなたと諦めの悪い私」理論的な私と、綺麗なのに着飾らなくて、非効率な料理が好きなアンナへの想いがかわいくもいじらしい。
「イマジネション憧憬」アバターという本来の姿とは少し違うところでの関わり合いと憧れというところが好きです。

服部匠

あわいに揺らめく、言葉にならない感情

「わたしとあなたのあわいのことのは」は、十代の少女の目に映る小さな世界を印象的に切り取った、SF掌編集です。

 食事には市販の固形食を食べたり、お目付け役兼ボディガードのロボットがいたり、電子の世界でアバターを纏ったり。それが彼女たちの日常。
 そんな当たり前のことよりも、彼女たちが関心を向けるのは、一番近くにいる、一番近くにいたい、ある女の子のこと。
 変わった趣味を持ち、見た目に頓着しないおさななじみ。ちょっぴり「不良」な提案をしてくるあの子。一足早く「大人」にならざるを得ない友達。飛び抜けて洗練されて見える友人。
 友達をバカにする子たちを見返してやりたい、とか、学校の帰り道に友達とおしゃべりしたい、とか、周りとはなんだか違う子への焦がれるようなあこがれとか、思春期のちょっとした感情の解像度が高くて驚かされます。そんな時、私にもあったなぁ。感情をうまく整理することも、現実はそういうものだと自分に言い聞かせることもまだ知らない、すれていない少女たちのきらめきがまぶしくて。そこに加えられる近未来ガジェットがいいアクセントになっています。
 短い作品ばかりですが、読み味は抒情的で、豊かです。淡い色合いの表紙イラストも内容にぴったり。

あずみ

子供ではない、けれども大人でもない。

 旅立つまえのあわいのひととき、言葉にならないけれども確かにある……繋いだ手のぬくもりが感じられる作品集です。

「好き」
 家族に抱く「好き」、ただ見た目が気になる「好き」、憧憬の対象としての「好き」……千変万化の色合いをもつ「好き」を言葉にするのは難しい。
 この短編集は、少女たちの、ともだちとしての「好き」に、わずかに別の色彩を帯びた想いを描く短編集です。

「変わり者のあなたと諦めの悪い私」
 着飾ればきっと綺麗なはずの幼なじみはまるで身繕いに無頓着で……娘らしくともに着飾る夢と、そんな夢を抱く「私」に、微かにもどかしさを抱く幼なじみ。
 温度差と、それでも通じるものを抱くふたりの体温か甘やかに切ない物語

「心ばかりの悪だくみ」
 過保護に過ぎる乳母ロボットの目を疎ましく思う中学生たち。
 大人の監視のない場所で、ふたりだけ、女の子らしい内緒話もしたい……少女らしさが花ひらく物語

「雪が溶けたら」
 冬に閉ざされてしまった大地、来ることのない春を待つふたり。
 家庭の事情で生活に余裕をなくし、けれどもそれを淡々と受け止める幼なじみと向き合う「私」の心の傷跡の物語

「イマジネイション憧憬」
 学習用のバーチャル空間で目にする「彼女」に憧れる「私」。シンプルに美しい彼女には秘密があった……バーチャル空間に投影されたアバターの向こうに見え隠れする揺れる気持ちの物語

 各編、短いながら詩情の感じられる作品集です。

宮田秩早