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    田舎へ旅を〈新装版〉

    田畑農耕地
    400円
    エンタメ

  • 鶏の声に起こされ、井戸で汲んだ水で顔を洗い、着替えと朝食を済ませて職場へ。何の変化もない日々に、青年は思わず独りごちる。どこか田舎へ旅行に行きたいものだ――(表題作)。“今ここ”ではないどこかを描きつつ、“今ここ”への皮肉に満ちたショートショート集。

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「さて、今日も頑張るぞ」
 ソファから立ち上がり気合を入れたのは、しわ一つないスーツを身にまとった青年だ。自宅のリビングの中央に立った青年は目を閉じ、頭の中に会社のオフィスを思い浮かべる。すると次の瞬間、リビングの風景は融けて消え去り、青年の身体は社員達で混み合うオフィスの一角に現れた。現実にこんなことが起これば、オフィス中の人間が慌てふためくだろう。しかし、青年を含めてオフィスにいる全ての人間が、この光景に何の驚きも示さない。当然のことだ。今起こったことは、現実の出来事ではないからである。
 バーチャルリアリティ。発想自体は二十世紀の後半、本格的な製品化は二十一世紀に入ってから始まったこの技術は、当初、主に体感型ゲームの開発などといった娯楽目的で活用された。しかし、仮想空間には文字通り限界がない。仮想の世界に入って遊ぶことが可能なら、全く別の何か、例えば労働をすることも可能なのである。
 青年は自分用の椅子に腰掛けた。机も棚も付属していない、ただの椅子だ。これで就業準備は終わり。青年が念じると、目の前の何もない空間にメール画面が展開される。特に新しい連絡が入っていないことを確認した青年は、続いて書きかけの報告書の作成を始めた。メール画面が閉じ、代わりに報告書といくつかの資料が開かれる。青年はそれらを交互に眺めながら、文章を考える。頭の中で組み立て終わった文章は自動的に報告書のファイルへと反映されていくので、視線を動かす以上の運動をする必要はない。
 今では大部分の労働者が、バーチャルリアリティの世界で働いている。そもそも、これまで行われてきた仕事のほとんどは、現実の世界でする必要のないものばかりなのである。現実世界で書類を作成するためには、机や文房具、コンピュータやコピー機など、膨大な量の道具をオフィスに用意しておかなければならない。しかし仮想空間なら、それらを何一つとして使う必要がないのだ。考えるだけであらゆる書類ファイルを編集でき、必要な情報があれば念じるだけでインターネットから入手できる。遠方の支社や顧客と連絡を取りたいときにも、電話機や飛行機は必要ない。どんな相手とでも、仮想空間上で瞬時に会うことができる。まさに、究極のコスト削減が達成された瞬間だった。バーチャルリアリティが労働に導入された結果、どの職種でも生産性が飛躍的に向上した。(「二つの世界」)

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